#905

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「サッとやりたかったですね」日米通算最多“4257安打”達成もイチローは他人事…その距離感が照らし出した「行動哲学」とは?

2025/03/28
ピート・ローズの4256安打を超えて、日米通算での世界記録を樹立した。しかし、この記録を巡る論争から最も離れた場所にいたのは、当の本人だった。(初出:Number905号 イチロー「“4257”と“3000”の間で。」 NumberPLUS「イチローのすべて」にも掲載)

 周囲の空気には流されない。大事なのは自分がどう感じ、考えたかだ。イチロー“ローズ超え”会見でのいくつもの談話は、そんな彼の人生観、野球選手としての思想をよく映し出していた。

「実はそんなに大きなことという感じはしていません。僕としては日米通算ということでどうしたってケチがつくと分かっているし、ここに目標設定していなかったので」

「今回のことで言えば僕は冷めてましたね。だからなんか変な感じはありました。(周囲との)テンションの違いというかね」

 6月15日パドレス戦、9回2アウト一塁でライト線に美しいライナーが飛んだ。日米通算4257本目。参考記録ながらイチローがピート・ローズのメジャー通算最多安打を抜いた瞬間だ。その十数秒後、主役は二塁ベース上で厳かにヘルメットを掲げていた。「(祝福を)あんまりやらないで、と思っていたんですが、これ(周りの反応)は止められないですから」。温かい拍手を贈ってくれた敵地ファンや三塁側ベンチ内で盛り上がるチームメイトたちへの感謝の気持ちだ。南カリフォルニアのまぶしい日差しが、遠慮がちなしぐさを補っているかのようだった。

 しかし試合後、イチローが喜びに浸ることはなかった。仲間たちからクラブハウスでどんな祝福を受けたのか。そんな質問にも「今日はこれ(記者会見)をやるためにその時間がなかったので……。本当はこんなこともしたくなかったんですがね」と本音を口にした。4257安打はどう扱われるべきか。核心となる当事者の意見を求められたときも「いやいや、どうしてもらっても構わないです。好きなようにしてください」と他人事のように突き放した。

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photograph by Yukihito Taguchi

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