プロ28年で積み重ねたヒットは4367本。メジャーでは前人未踏の10年連続200安打、シーズン最多の262安打という金字塔を打ち立てた。常に己の記録と向き合い、頂点を追い求めてきたイチローは、野球に何を見出し、戦ってきたのか。“特別な瞬間”と語る引退劇から1年――あらためて「ナンバーワンへの想い」を問う。
――引退をして初めてのオフ、どんなふうに過ごしていたんですか。
「結果を残すための準備をすることはもうありませんから、期待も不安もない状態でした。ただじっとしていられない性格もあり、時間を持て余すようなことはまったくありませんでしたね」
――そこに一抹の寂しさのようなものを感じたんでしょうか。
「普通に考えればそうでしょうけど、そこでも昨年の3月21日の出来事が一掃してくれるんです。終わり方の大切さ、ですね。ただ、スプリングトレーニングでは選手よりも動けなければならないと考えていたので、その準備がはかどらなくて、思いもよらない肉体の状態になってしまったことは検証対象の一つだと思いました」
――検証? それは以前に仰っていた野球の研究者として、ということですか。
「研究者、は大げさですが、フィードバックの材料となり得るものです。昨年の11月まではできる限りトレーニングを続けていましたが、(12月1日の)草野球の試合の後、3週間ほどトレーニングができない日が続きました。そうなると、年明けから急にやっても追いつかない。いったんゼロに戻ってしまった身体を1にもっていく作業はかなり大変で時間がかかることもわかりました。身体をこれだけ休めてしまうとこんな状態になる、それを短期間に戻そうとすると思ってもみない反応が起こることは、これまで経験したことがなく、十分検証の対象になります」
――そもそもマリナーズのインストラクターとして、選手よりも動けなければならないというモチベーションはどこからくるのでしょう。
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photograph by Naoya Sanuki