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【明徳義塾】「普通のやさしいおじさん」馬淵史郎68歳が今も選手を惹きつける理由<U-18日本代表・丸田湊斗、前田悠伍らの赤裸々証言>

2024/08/12
春夏通じて38回の甲子園出場している明徳義塾・馬淵監督
世界の壁に跳ね返され続けていた高校日本代表。その指揮を任され、悲願の初優勝へと導いたのは、変わりゆく高校野球界の“対極”に位置する監督だった。選手たちは何を思い、いかにして戦っていたのか。(原題:[日本代表メンバーが語る]馬淵史郎(明徳義塾)「時代も価値観も超えて」)

 やや芝居がかってはいたが、そのことが逆に冗談ではないのだろうなと思わせた。

「……怖かったです」

 そうこぼしたのは早稲田大1年生の高橋煌稀だ。一昨年、仙台育英の二枚看板の一人として、夏の甲子園で胴上げ投手になった長身右腕でもある。インタビュー中、感情をほとんど表に出さなかったが、そんな高橋がうっすらと笑みを浮かべていた。

 高橋が振り返ったのは昨年夏、台湾で開催されたU-18W杯でのことだ。

 日本代表はスーパーラウンドの3戦目で優勝候補の地元・台湾(チャイニーズ・タイペイ)とぶつかった。台湾応援団のマイクでがなる独特の大声援が球場を覆い、日本人選手たちの神経を逆なでする。そんな中、先発した高橋は2者連続で四球を与えた上に、3盗塁をからめられるなどして、初回にいきなり3点を失った。

「調子がよくなくて、ストライクを投げたくても投げられなかったんです」

高橋煌稀は仙台育英が誇る強力投手陣の一角を担い、2022年夏に甲子園優勝の立役者となった。'23年夏はエースナンバーを背負い甲子園準優勝。卒業後は早大に進学し、1年春に神宮デビューを果たした Hideki Sugiyama / Tadashi Hosoda
高橋煌稀は仙台育英が誇る強力投手陣の一角を担い、2022年夏に甲子園優勝の立役者となった。'23年夏はエースナンバーを背負い甲子園準優勝。卒業後は早大に進学し、1年春に神宮デビューを果たした Hideki Sugiyama / Tadashi Hosoda

 W杯は日本の高校野球とは異なり、監督が自らマウンドへ行くことが許されている。高橋の乱調を見かね、監督の馬淵史郎がベンチを飛び出した。馬淵は小柄だが、闘争心の権化のような男だ。高橋はマウンドで馬淵にこう言われたのだという。

「ストライク入れろ、みたいな」

 この回想はかなりマイルドに加工されている。大会直後に横浜高校の緒方漣を取材した際、そのとき馬淵は「ビビってんのか?」と高橋に軽く詰め寄ったと話していた。高橋に確認すると、こう首肯した。

「そういう感じでしたね」

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photograph by Tadashi Shirasawa

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