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「勝負を避けるつもりは全くなかった」江川卓が語るランディ・バースに打たれた本塁打と1985年の四球「唯一の欠点、それは…」《遠藤一彦、尾花高夫も“最強打者”について証言》

2025/04/25
90年の球団史における最強打者の筆頭として、必ず名前が挙がる。わずか6年間の在籍ながら、強さと巧さを兼ね備えた打撃は鮮烈だった。タイトルを総なめにし、ホームランの日本記録に迫った大砲に当時のセ・リーグを代表する投手たちはいかに立ち向かったのか――。(原題:[証言構成]ランディ・バース「エースが、最強を育てた」江川卓/遠藤一彦/尾花高夫)

 その瞬間、マウンド上の江川卓は「異変」を察知した。捕手の有田修三が気づいたのかどうかはわからない。けれども、江川は確かにいつもとは違う「それ」をその目で確認した。

 18.44m先では6試合連続ホームランを記録中のランディ・バースがバットを構え、静かにこちらを見据えている。この日の第1、2打席は連続ヒットを記録したものの、続く第3、4打席は凡打に終わっていた。プロ野球タイ記録となる7試合連続ホームランを放つには、8回表に訪れたこの第5打席しかなかった。

 江川がここまで投じた球数は130球になろうとしていた。カウントは0ボール1ストライク。このとき、江川の瞳には普段とは異なる光景が映っていたという。

 1986年6月26日、後楽園球場での出来事を本人が振り返る。

「あの日の第5打席、バースは確かにいつもよりホームベースから半歩離れて打席に立ちました。それまで何年も対戦してきましたから、私にはすぐにわかりました。それまでの4打席は普段通りだったのに、あの打席だけは確かに半歩離れて打席に立っていました……」

 普段と異なるバースの姿を見て、江川は「あぁ、本当にホームランを打ちたいんだな」と理解した。同時に「もうそれだけで十分だ」と思ったという。

 いったい何が「十分」だったのか。

「私たちの勝負にとって、それはとても大きな意味を持つ出来事でした。彼はホームランを打つために、普段とは違うアプローチを試みたんですから」

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photograph by Bungeishunju

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