その夜、古賀紗理那は雄弁に語った。
約1カ月後にはパリ五輪が開幕する6月29日。本番へ向け最後の国内合宿が行われるナショナルトレーニングセンターに、リザーブメンバーの山岸あかねを含む13人の選手と、眞鍋政義監督以下、全スタッフが集結した。ミーティングの議題は、パリ五輪出場という大きなミッションを成し遂げ、本番の大舞台ではどんな目標を掲げるか。
まず眞鍋が全体に向け、前回の東京五輪を踏まえて「ベスト8を目指すなら1ステップ、ベスト4なら2ステップ、メダルを目指すならば3ステップ上がらなければならない」と述べる。そのうえで何を目指すか。監督が目標を与えるのではなく、全員をランダムに5つのグループに振り分け、話し合いをスタートさせた。古賀の席には山岸と、強化委員長の中村貴司、ストレングスコーチの木下恒司がいた。
絶対にメダルを獲って、「最高だったね」で終わりたい。
古賀の中では迷いなどない。むしろ全員が「メダル獲得」と積極的な意見を出すかと思いきや、周囲の反応を気にして、誰が話す? 誰から言う? という沈黙が続く。口火を切ったのは中村強化委員長だった。
「僕は女子バレーボールの強化委員長として、JOCに『メダル獲得が目標です』と伝えているからね」
それならハッキリ言えばいい。しびれを切らした古賀が、前のめりに話し始めた。
「メダルじゃないんですか? 私の目標はメダル一択。メダルの色は問いません。でも絶対にメダルを獲って、最後に『このチーム、最高だったね』で終わりたくないですか? 私はそのイメージしかないです。メダル獲得って言うのは恥ずかしいですか? 私は全然恥ずかしいことじゃないと思います。たとえ無謀だろ、身の程をわきまえろと世間から言われたとしても関係ないじゃん、って私は思います」
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