大将、付け人はそう呼んだ。いま書かなくてはならないのが寂しいけれど、狼とも呼ばれた精悍な男は死ぬまで大将だった。
元横綱、千代の富士。あれほど頑丈な体に病は宿り、61歳にして雲上の土俵へ迎えられた。
歴代3位の優勝31度。同2位の通算1045勝。当時、双葉山の記録の次点となった53連勝の記憶も鮮明だ。
お相撲さんなのにアスリートであった。つぶらと表現したくなる両の目が小さな顔面に収まり、なで肩から突き出る腕の筋肉は余分な脂肪にくるまることなく小さな山脈を形成した。体の幹は巨漢との衝突にまるで揺るがない。太くしなやかな足が連写のシャッター音のリズムで前へ動いた。
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photograph by Naoya Sanuki