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「もういいやろ。だいぶ前の話やんけ」9区の区間記録を14年保持した篠藤淳は、なぜ腹を立たのか?《箱根駅伝“区間”の物語:9区&10区》
9区 戸塚~鶴見 「重荷だったMVP金栗杯の栄光」
箱根駅伝で手にした勲章は重荷になっていた。2008年、中央学大の篠藤淳は9区で区間新記録を樹立し、区間賞を獲得。復路の走者として初めて大会最優秀選手賞の金栗四三杯を手にした。華やかな実績を引っさげて実業団の山陽特殊製鋼へ進んだが、周囲の期待とは裏腹に結果を出せずに苦しんだ。
「重圧に耐えられず、最初の頃はしんどかった。箱根の喪失感が大きくて、次の目標をなかなか見つけられなかった」
どこに行っても9区の話ばかり。次第に気が滅入り、腹立たしさを覚えることもあった。
「もういいやろ。だいぶ前の話やんけって」
落ち着いて振り返られるようになったのは三十路を超えてから。現在は34歳。心の余裕ができた。いまも正月のニューイヤー駅伝を目指して意欲的に走っている。
「この時代になっても僕の話をしてもらえて、あのとき、頑張って良かったなと思います」
当時は主将として初の総合優勝を目標に掲げ、復路で盛り返すために9区を志願した。走る前から確信めいたものがあった。コースを地点ごとにシミュレーションし、設定タイムを算出すると、どう計算しても1時間8分38秒の区間記録を更新できる。再度、見直しても同じだった。川崎勇二監督は驚きこそしなかったが、「こいつ本気で狙っているな」と篠藤の9区に懸ける思いを感じ取っていた。
「スタートラインに立ったとき、これは出ると思った。調子も良かったですし」
6位で襷を受け、権太坂までに東海大を抜いて5位、そこから関東学連選抜、山梨学大を捉えて、横浜駅までに3位に浮上。10km地点までほぼ設定タイム通り、5kmを14分17秒の速さで快走していた。中盤以降は1kmを3分2秒、3秒で刻む予定だったが、思った以上に体は動いた。1km3分切りのペースを保っていても燃料切れの不安は感じなかった。横浜の市街地を抜ける15km過ぎからしばらくは人垣で沿道の距離表示が見えなかったが、まだスピードは落ちていなかった。
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