復活を期す坂本勇人には今年、何かが降ってくる瞬間があったのだという。
「降ってくる……うん、ありましたね。打席の中でのこの1球で、『あ、この感じ、これ、いいな』と思った瞬間があって、それを続けていったら、やっぱりよかった、という1球がありました」
それは、どの1球だったのか。
「ちゃんと把握はしていないんですが、僕が試合の中で、『これじゃ打てねえわ』と思ってノーステップにした打席がありました。6月の西武戦だったかな。左ピッチャーが相手でタイミングが取りづらかったのでノーステップにしたら、次の日の練習で(原辰徳)監督に『あのノーステップ、よかったじゃないか』と言われたんです。
ちょうどその日、相手の先発がアンダースロー(與座海人)だったので、もう一度、ノーステップを試してみようと思って打ったら、ポーンとホームランが出た(6月15日、インコース低めのストレートをレフトスタンドへ運んだ第9号)。そのとき、やっぱり僕も変化していかなきゃダメなんだなと思いました。今まで何千打席と立ってきて、バッティングはこうすべきだというものが自分の中にあったんですが、そこに囚われるのはよくないと感じたんです」
「空間+右足=ノーステップ」
6月14日の東京ドーム。
交流戦を戦うジャイアンツにあって、坂本はもがき苦しんでいた。今シーズンの開幕から22打席続けてヒットが出ないなど不振に喘ぎながらも、徐々に調子を取り戻しつつ、それでも波に乗り切れない時期。坂本の迷いは、この日の第1打席から見て取れた。マウンドにいたのはライオンズの先発、左のディートリック・エンス。トップバッターの坂本は、いつものように左足を上げて初球を待った。チェンジアップを見送って、ボール。2球目、3球目も同じように足を高く上げていた坂本に変化が生じたのは4球目だ。足の上がりが小さくなって、カットボールを左方向へ引っ張った。これがファウルとなって5球目――。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています