部の中でただ一人、実力と人格を兼ね備えた人物が就くキャプテン。そのチームの大黒柱が学生生活最後の大一番、箱根路を走らない――。彼らの身に何が起きていたのか。名門を束ねた3人に話を聞いた。(初出:Number1017号[追憶ノンフィクション]走れなかった主将たち。)
何が起きているんだろう。
最初は戸惑いでしかなかった。
2013年、元日の昼のこと。駒澤大学の陸上部寮では、例年同様に寮母の大八木京子さんが簡単なおせちを用意してくれていた。箱根駅伝を翌日に控え、正月気分にひたる余裕もない部員たちにとって、朝練習後のこの食事はささやかな喜びだった。
最終学年で迎える最後の箱根路、主将の撹上宏光にとっても感慨深い思い出の昼ご飯となるはずだっただろう。
だが、楽しみにしていたはずの料理に手が伸びない。急な寒気を覚え、とりあえず何かを口に入れなければならないという使命感でヨーグルトだけを口にした。
すぐに部屋に戻り、テレビをつけたが、頭の中は軽いパニックに陥っていた。
「ちょうどニューイヤー駅伝が放送されていて、それを見ていたんですけど、だんだんとお腹が痛くなってきて。でも、体調が悪いということをすぐには言えなかったですね。主将としていっちょまえなことを部員に言ってきて、よりによってお前が最後に風邪を引くのかよって……。自分でもそう思いましたから」
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photograph by Koomi Kim