クラシックで惜敗し、涙を呑んだ3歳の春――。あれから積み重ねた確かな成長と、揺るぎない自信。秋の旅路を前に、鞍上の心は静かに燃えている。来るライバルとの再戦に向け、名手は何を語るのか。
「天皇賞ですからね。好メンバーが揃うのは当然です。簡単に勝てるようなレースになるとは思っていません」
3月のドバイシーマクラシックを圧勝し、レーティング世界一の立場で臨む秋の舞台。その初戦となる天皇賞に向けて、イクイノックスの主戦騎手、クリストフ・ルメールは至って冷静だ。
同レースには、2週前登録の時点でイクイノックスを含む13頭がエントリー。フルゲートを割っているが、昨年の3、4着馬であるダノンベルーガやジャックドール、さらには昨年の牝馬2冠馬スターズオンアース、春秋天皇賞連覇を狙うジャスティンパレス、上がり馬プログノーシスと、錚々たるメンバーが名を連ねている。
そして何といっても、昨年のダービー馬であり、イクイノックスに最後に土をつけたライバル、ドウデュースも参戦する。
「ただ、イクイノックスの強さをもってすれば、必ず勝ち負けは出来る。そう信じているし、信じて乗るから大丈夫でしょう」
イクイノックスが世界一へと駆け上がったこの1年は、ルメールがその実力に“確信”を得るまでの道中でもあった。
1年前の天皇賞・秋で感じたイクイノックスの成長。
ちょうど1年前の天皇賞・秋。イクイノックスにとって初のGI制覇となったレースを、ルメールはこう振り返る。
「コーナーは外目を回って、内側に何頭もいる状況だったので、逃げ馬は視界に入っていませんでした。だから、直線を向いて初めて、パンサラッサが15馬身くらい前で大逃げしている事を知ったのです」
その瞬間の正直な気持ちを尋ねると、少し表情を強張らせた。
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photograph by Ichisei Hiramatsu