日本人未踏の舞台に立ち、本来の走りができなかった昨年、100mという競技における精神力の重要さを認識した。1年後、揺るがない自信を持って同じ場所に立ち、彼には世界の頂点はどのように見えたのか。
レース直後と日本に帰国後、報道陣の前で口を開いた2度のタイミングで、サニブラウン・アブデル・ハキームの言葉には変化があった。8月、ハンガリー・ブダペストで行われた世界選手権を終えてのことだ。
この大会の100mで、アメリカ・オレゴンで行われた昨年に続き、2度目の決勝進出を果たした。
「めちゃくちゃ悔しいです」
レース直後、サニブラウンは首を振った。
4×100mリレーにも出場した後、大会を終えて帰国。
「悔しい結果ですし、ぜんぜん満足していないです」
そしてこうも付け加えた。
「ステップアップすることはできたと思います」
悔しい、の一辺倒ではなかった。
大会を通じて、たしかな成果も手にしていた。
昨年世界陸上で7位入賞も、悔しさのほうが大きくなった。
サニブラウンにとって、今回の世界選手権は、昨年の同大会への反省から始まっていた。日本人選手では世界選手権史上初となる100m決勝進出という快挙をなしとげ、7位入賞を果たした。
ただ、彼はこう振り返る。
「その舞台に立てたのは自分としてもうれしかった気持ちがありますけど、やっぱりそこでしっかり結果を残せなかったという部分で、時間が経つにつれて悔しさが大きくなっていきました」
その理由は、決勝という大一番で力を出せなかったから。準決勝は10秒05とまずまずだったが、決勝では10秒06とわずかにタイムを落としたのだ。
オレゴンは、決勝のレーンに立つことを現実的な目標として設定し、自身の実力でそこにこぎつけた大会だった。日本人として初めて立つ舞台には、これまで体験したことのない異様な空気が流れていた。
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photograph by Kiichi Matsumoto