自国開催のW杯で訪れた日本ラグビー最良の日。日本が誇る快足ウィングは、その熱狂の中で今までにない感覚を味わった。現在は医学生として過ごす彼が、4年前の特別な経験を語った。
4年前の9月、福岡堅樹は赤と白のジャージを着ていた。彼はいま順天堂大学医学部3年生、「白衣」を着る人になった。
「現役時代の体重は85kgでしたが、今は81kgです。自分でトレーニングもしてますが、もうあんなには追い込めないです(笑)。医学部では、1年生は医学と教養を並行して学び、2年生からは解剖実習が始まりました。3年になって今年の5月からは『医学教育学』研究室での実習があったんですが、これが大きな学びになりました」
日本の社会には、医療サービスを受けられない人たちが一定数存在するのが現実だ。その状況を良いものに変えていくためにはどうすればよいのか。福岡は医学生としてこの問題に取り組んだ。
「実際にホームレスの方々のところに足を運んで炊き出しに参加したり、聴覚、視覚障害の方が生きる世界を少し体験させていただきました。今まで見たことがなかった世界で、本当に自分の視野、裾野が広がった感じがします」
「ゾーン」の中に入り、感覚が研ぎ澄まされていた。
学生として未知の世界へと足を踏み入れる毎日だが、2019年10月13日に行われたスコットランド戦で福岡は異世界を体験していた。いわゆる「ゾーン」だ。
「前半39分に僕が取ったトライは、ティミー(ラファエレティモシー)がキックでボールを転がすと、『このあたりで跳ねるだろうな』というのが察知できました。自分はキャッチできる地点を予測し、なおかつスピードを落とさずに走り込むタイミングを計算するんですが、本当にそこでバウンドしたんですよ」
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photograph by Asami Enomoto