代表チームで唯一のNBAプレーヤーは、大舞台に向け不退転の決意を口にした。その胸の奥に宿る炎は、誰よりも熱い。「失うものは何もない」と語る28歳は、W杯で何を証明しようとしているのか。
思わず、「本気ですか?」と聞いてしまった。
すると、渡邊雄太は苦笑しながら「本気です、本気です。そんなホラは吹かないので」と返してきた。
8月25日から始まるFIBAバスケットボールワールドカップ2023を前に渡邊が繰り返し口にしている、「今大会でパリ五輪の出場権を取れなければ代表を引退する」という発言のことだ。
疑っていたわけではない。彼ほど自分の言葉に真摯なアスリートはいないし、軽く引退を口にする選手ではないこともわかっている。しかしまだ28歳。しかも日本代表に対しては、人一倍熱い思いで向かい合ってきた彼だけに、この発言は衝撃だった。
日本が今回のW杯でパリ五輪の出場権を取るためには、大会に出場するアジア6カ国の中で最上位の成績を残さなくてはいけない。4年前の中国W杯で5連敗、2年前の東京五輪で3連敗と、世界の舞台で連敗中の日本代表にとって簡単な目標ではない。
しかし渡邊は、だからこそ引退を宣言したのだと言う。
「NBAのシーズンが終わって、代表のことをいろいろ考えだすようになって。(今回のW杯に)出ると決めてから、今回勝てなかったらもう最後かなと思い始めました。
そもそも、オリンピック、W杯を2大会連続で母国開催できる機会はまずないですし、それを自分の年齢的にも結構いいときにやらせてもらっている。(それなのに)自分が中心選手として出ているときに連敗だと、責任を果たせてないのかなって」
公に宣言したのにも理由があった。
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photograph by Kiichi Matsumoto