待ち人が目の覚めるような青いワンピースで現れた。現役時代のインタビューはもっぱら、スポンサーロゴの付いたジャージだった。見慣れぬ姿にドキッとする。
「引退って、もっと寂しいものなのかなと思っていたけど、すごくすがすがしい気持ち。ハッピーな毎日です」
卓球選手としては異例の約200人の報道陣を集めた2023年5月18日の引退会見。23年間に及ぶ競技生活に終止符を打った石川佳純は、引退の理由を「自分自身、やり切ったと思えたから」と告げた。
長年卓球界を引っ張ってきた30歳は、達成感に満ちた晴れやかな笑顔で輝いていた。あれから2カ月。目の前で「今はノープレッシャーの日々です」と笑う彼女は、とても自由で軽やかに見える。現在の心情を映すようなクリアな青のワンピースが、やけにしっくりきている。
選手時代の勝負ウエアは密かに赤と決めていた。現役最後の試合で着たのも闘魂の赤。それは'23年4月19日、海外ツアーのWTTチャンピオンズ・マカオ女子シングルス2回戦だった。相手は'21年開催の東京オリンピック女子シングルス金メダリストの陳夢(中国)。石川とはジュニア時代から幾度も対戦してきた同世代のライバルだ。
陳夢には'19年7月のITTFワールドツアープラチナ・オーストラリアオープンの準々決勝で一度勝ったが、なかなか崩せない大きな壁だった。ラストマッチも軍配はゲームカウント3-1で陳夢に挙がった。
「3月のWTTシンガポールスマッシュが終わった時点で、4月の(WTT)2大会を最後にしようと決意を固めました。それまでも今年に入ってからは毎試合、『もしかしたら、これが最後になるかもしれないな』という気持ちでプレーをしてきました」
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