スペイン戦で日本を救った24歳の歩みは、決して平坦ではなかった。幾度も壁にぶち当たり、その都度、前に進んできた。盟友の肩を抱いて涙に暮れたW杯を経て、サッカー小僧は覚悟を決めた。
なかなかその場から動けなかった。
120分の激闘の末にPK戦で敗れたクロアチアとの決勝トーナメント1回戦。途中出場でピッチに立っていた田中碧は、2人目のキッカーとしてPKを外しうつむく盟友の三笘薫を支えながら敗戦の瞬間を見届けた。歓喜に沸くクロアチアの選手たちに視線を注ぎつつ、険しい表情を浮かべたまま、静かに涙を流していた。
「プロを目指し始めた時から、この大会に出ると決めていたわけではないですけど、毎日、本気でサッカーに向き合ってきた中で、これしかできなかったのかという悔しさをすごく感じています。自分の不甲斐なさ、力の無さを、このW杯に出たことで感じているところです」
スペイン戦の値千金の決勝点で日本の窮地を救った24歳のこれまでの歩みは、順風満帆とは言い難かった。
2017年、プロ1年目の田中を初めて見た時の印象は「線が細くて、静かな子」だった。もともとボール奪取能力やパスの技術、ハードワークには定評があったが、フィジカル面に課題があった。普段は同期の若い選手たちと無邪気に戯れていても、怪我で出遅れた影響もあって紅白戦になかなか入ることができず、周りでいつも“止めて、蹴る”のトレーニングばかりしていたことを覚えている。こちらの質問に対しては、はっきりと自分の考えを伝えてくれる一方で、どこか感情が希薄な印象も受けた。そんな彼を見て、プロの舞台で結果を出していくには、少しばかり時間がかかるだろうと予想していた。
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photograph by Takuya Sugiyama/JMPA