インタビューが始まるはずの時間を迎えても、彼女は来なかった。
10分、20分と進んでいく時計の針は、待ち人がここに現れないことを示していた。
スペシャルウィーク、グラスワンダー、キングヘイロー、エルコンドルパサー……綺羅星の如きウマ娘が揃った“黄金世代”にあって誰も予想し得なかった走りで菊花賞の3000mを逃げ切ったのが“トリックスター”セイウンスカイである。
「菊花賞」は最も強いウマ娘が勝つと言われる。ウマ娘としての力量が高い次元で試される舞台で、見ている者、走っている者、おそらくは本人以外のほぼ全員を出し抜き、高らかに凱歌を奏でた。なぜ、彼女にはそのような芸当ができたのか――。
インタビュー・ルームとして押さえてもらっていたトレセン学園の一室を出て、生徒たちに行方を聞いてまわる。親切な1人のウマ娘が教えてくれた。
「あ、スカイさんなら……」
学園を出て30分ほど。セイウンスカイがいる、という河原に向かうと灰色の髪を揺らしたウマ娘が悠然と釣り糸を垂らしていた。釣果はどうですか?
「んー、さっぱりですねー。お魚さんたちはご機嫌斜めかな? ……ところで、あなたはどこのどなた様で?」
こちらが名乗ると、セイウンスカイは笑みを浮かべたまま答える。
「ですよねー。今日でしたっけ、インタビュー。まあ菊花賞のことはスぺちゃんとか、キングとか、ほかのウマ娘たちに聞けばわかるだろうし、別に私が話さなくてもいっかなー、なんて思ってたんですけど。じゃあ、大サービスです。セイちゃんをたずねて三千里、あなたの気合いに免じて話してあげましょっかねー」
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