緊張の初戦、キャプテン森岡隆三の負傷交代という大ピンチからチームを救ったのは、端正な顔を黒いマスクで隠した男だった。狭い視野の中、“バットマン”はいかにフラット3を機能させたのか。
日本サッカーミュージアムの一角に「FIFAワールドカップゾーン」はある。円陣を組む日韓大会メンバーの等身大人形のなかで、黒のフェイスガードまで再現されている宮本恒靖はとりわけ目を引く。その隣の展示コーナーには“実物”が置かれている。色褪せて白い生地が少し浮き出ており、20年の長い歳月を物語っている。
ミュージアムで撮影している合間に、彼は懐かしそうにあちこちに目をやった。
「写真とか展示品を見ると、確かにこんな感じだったなっていろいろ思い出しますね。このフェイスガードにしてもそうです。当時、(ベースキャンプ地の)北の丸でテレビをつけたら、『笑っていいとも!』のオープニングで香取慎吾さんが同じようなものを着けて出ていたんですよ。すごい反響だなって驚いた記憶があります」
バットマンビギンズ――。ケガを抱えていたディフェンダーがどうして日本を救うことができたのか。
本大会直前、大学生を相手にした練習試合でアクシデントは起こった。競り合いの際に相手の肘が顔面に入ってしまったのだ。
「ピキッという音が聞こえたんです。鼻血が止まらなくて、これは大変だと思って(ロッカーに)戻って鏡を見たら、鼻が曲がっていたんです」
鼻骨を折ったもののプレーできないレベルではなかった。日本代表のメディカルスタッフはただちに情報を集め、関西から医療用のフェイスガードを製作できるメーカーを呼び寄せた。ケガをした日の夜に石膏で型を取り、徹夜作業で仕上げてもらった。
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photograph by Takuya Sugiyama