瑞々しい表情には、大舞台で戦う喜びが満ち溢れていた。二十歳で上がる日本シリーズ初戦の先発マウンド。口をすぼめて何度も息をつく姿に緊張感を漂わせながらも、奥川恭伸はまっすぐ喜怒哀楽を表した。
1回、2死三塁のピンチにオリックスの4番・杉本裕太郎を打ち取ると、右手で勢いよくグラブを叩き頬を緩めた。5回2死一、二塁で吉田正尚の当たりがフェンスぎりぎりのセンターフライになり、右の拳をぐっと握りしめて吠える。そして1点リードの7回、代打・モヤに外角高めのスライダーを捉えられた途端、マウンドにしゃがみこんで悔しがった。
7回97球6安打1失点。勝敗はつかなかったが、オリックスの絶対的なエースの山本由伸を向こうに、一歩も譲らなかった。怯まずにストライクゾーンで勝負する姿は、勇敢なエースそのものだった。
「2月のキャンプインの時、今の自分の姿は全く想像していなかったです。あの時はとにかく、今年はやってやるぞ! という気持ちだけ。去年はケガもあったので、とにかくスタートラインに立つんだ、という思いでした」
一気にスターダムを駆け上がった1年を奥川は驚きとともに振り返る。プロ1年目の2020年は右ひじを痛め、投球できない時期が長かった。初めて一軍メンバーに選ばれた今年2月の沖縄・浦添キャンプは、先輩についていくのも必死だった。
3月28日、開幕カード3試合目の阪神戦の先発に抜擢されたが、それも実力でローテーション入りを奪い取ったというよりは、未来のエース候補の育成プランの一環、という方が近い。若き才能を託された伊藤智仁投手コーチは明かす。
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