今夏、再び祭典の場に姿を現す水泳の申し子と、冬の王者がある日、語り合った。ふたりには、大きなものを背負って戦うという宿命があった。その苦しみを知っている冬の王者は、彼女のことを気にかけていた。濃密な時間は、そこからスタートし、話はオリンピックの心構え、互いの目指すものへと移っていく──。トップアスリートの世紀の対談を、ここに余すことなくお届けする。
――おふたりは初めてお話しされるということですが、これまでお互いをどのように見ていましたか。
池江 たぶんお聞きかと思うんですけど、一番衝撃を受けたのは、平昌オリンピックで羽生選手が金メダルを獲った時です。私は、スケーターに知り合いがいることもあって、スケートを見るのは結構好きなんです。その日、私は日本国内で試合(KONAMI OPEN)があったんですけど、羽生選手がオリンピックで優勝したと知って、「こんなに努力して頑張っている人がいるんだから、私もできるはず」と思い、200m自由形に臨みました。そこで日本記録を出せたりとか、ものすごくいい刺激をいただいています。
羽生 ありがたいです(笑)。僕からすると、こんな発言をしたらすごく年寄りみたいですが、若いのにいろいろなものを背負って頑張ってるなとずっと思っていて。
ご自身の病気のことはもちろん、他の病気にかかった人を勇気づけたいとか、元気になってほしいというものまで全部。そんなに背負わなくてもいいんじゃないかなと思いつつ、背負っているから強いんだろうなとも。一言で言うと、すごいなと感じていました。
池江 確かに背負わなくていいことまで背負っている気は自分でもしています。復帰してからは、病気した人代表みたいなものをすべてのレースで感じていました。でも、それをもっと軽くしたくても、どうやってそういう自分を作っていったらいいか分からないみたいなところもあって。それは仕方ないのかな、という感じです。
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photograph by Kiichi Matsumoto