「ファンティヘレン……、ミューレン……、ファンバステン、おお! すごい! なんてゴールだ! 信じられない! 大きく浮いたボールをあんな角度から……、まったく、凄まじいゴールだ!」
'88年の欧州選手権決勝で、マルコ・ファンバステンが伝説的なボレーシュートを決めると、このオランダ人実況は度肝を抜かれ、状況を説明し損ねた。
でも同じ瞬間を共有した者なら、プロのアナウンサーがなぜそうなってしまったのか理解できるだろう。大きな山なりのクロスに、ファーサイドのほぼ角度のないところからダイレクトで右足を合わせ、GKの頭上を抜いてサイドネットに突き刺したのだ。咄嗟に適切な表現ができなくても、不思議ではない。
その美しいボレーは欧州選手権決勝史上、いや大会史上、あるいはこの競技の歴史上、もっとも印象的なゴールのひとつに数えられる。古くからのフットボールファンには、馴染みのある奇跡のシーンだ。
ただしこの実に有名なゴールは、いくつかの偶然が重なって生み出されたものでもある。それとも、外的要因によって、生まれなかった可能性もあったと言うべきだろうか――。
「理想的にミックスされたチームだった」
西ドイツ大会に参戦したオランダ代表は、一流の選手たちで構成されていた。直前のヨーロピアンカップ(チャンピオンズリーグの前身)と国内リーグの二冠を遂げたPSVアイントホーフェンからハンス・ファンブロイケレン、ロナルド・クーマン、ジェラルド・ファネンブルクらが、カップウィナーズ杯を制したメヘレンからエルビン・クーマン、その決勝で敗れたアヤックスからヤン・ボウターズ、アーノルド・ミューレン、ジョン・ボスマンらが集結。むろん中心にはACミランのルート・フリット、ファンバステン、フランク・ライカールト(大会後に加入)がいた。
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