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藤井聡太「18歳の大志」~証言で振り返る1年~

2021/01/07
藤井聡太の熱狂の1年は、他の棋士たちの目にどう映っていたのだろう
どこまでいっても頂点ということはありません――。棋界が生んだ若き英雄は、二冠を奪取したのち、こう語った。熱狂の1年は未踏の高みへの第一歩に過ぎないのかもしれない。彼が大舞台で見せた異次元の戦いを、棋士たちの言葉で回想する。

 言葉を選ぶ数秒は、あの夏の出来事を反芻するための時間だったのかもしれない。

 2020年の夏、藤井聡太が史上最年少二冠を達成した2つのタイトル戦について棋士たちに尋ねると、最初の言葉を発するまでに、必ず少しの間があった。

 棋聖戦では渡辺明、王位戦では木村一基というトップ棋士2人を相手に、合わせて7勝1敗。しかも8戦とも、棋士の目から見ても驚異的かつ劇的な内容だった。

 最初の衝撃は、新緑が美しい初夏に訪れた。6月8日、棋聖戦五番勝負第1局。

 立会人を務めた深浦康市が振り返る。

「藤井さんはいつもと変わらない様子で、軽装でしたね。緊張しているようには見えませんでした」

 世界中を翻弄していたコロナウイルスの影響で対局スケジュールが押され、藤井が史上最年少でのタイトル挑戦を決めたのは、開幕戦のわずか4日前だった。

 藤井はスーツ姿で、足元はスニーカー。タイトル戦用の和服の新調は間に合わなかったのだ。初めて踏む大舞台だったが、三冠を保持する渡辺明を相手に序盤から溌溂と駒を運ぶ。

自玉はあっという間に包囲された

 93手目、盤上に閃光が走った。

 ▲1三飛成――。

 藤井は玉の次に大事な飛車を捨てて敵玉に迫ったのだ。

「いくらなんでも指しすぎだろう」

 盤を挟んでいた渡辺も藤井の信じ難い踏み込みに疑念を抱いたが、心中の黒雲はすぐに消えた。自玉はあっという間に包囲されたのだ。盤上の景色がガラッと変わったことにショックを受けたが、このままでは終われない。渡辺は藤井玉に王手の連続で迫った。AIの無機質な評価値は藤井必勝を示していたが、深浦は「観ていてこれほどハラハラドキドキした将棋は珍しい。人間にはどう見ても際どかった」と証言する。

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photograph by Japan Shogi Association

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