サッカーを愛する人ならば皆、心の中に「自分にとってのマラドーナ」が宿っているだろう。そのマラドーナが天に召され、心の一部を引き裂かれた気持ちになっているのはきっと著者だけではあるまい。
訃報が入った直後から、テレビのニュース番組ではアルゼンチン国内のマラドーナ所縁のクラブに人々が花やキャンドル、ユニフォームや旗などを手に集結する様子が映されていた。
マラドーナが幼少期からファンだった最愛のボカ・ジュニオルス、プロデビューを果たしたアルヘンティノス・ジュニオルス、1年ほど前から監督を務めていたヒムナシア、わずかな在籍期間で永遠のサポーターを味方につけたニューウェルス・オールド・ボーイズ。ニューウェルスには、同じロサリオ市のライバルであるロサリオ・セントラルのファンまで足を運んでいたが、ロサリオを訪れたことのある人ならば、過激なほどの敵対心を抱くこの2チームのサポーターが心を通わせるその情景がいかに非現実的かがわかるだろう。
「ディエゴの人生は死と復活によって成り立っている」
ほどなくしてアルゼンチン政府がマラドーナの棺を大統領府「カサ・ロサーダ」に安置し、翌朝から一般公開すると発表するや、今度は大統領府前の五月広場に人々が集まり始めた。マラドーナを見るためここに群集ができるのは、'86年W杯を制した代表選手たちがカサ・ロサーダのバルコニーから挨拶をした時以来のことだ。
政府は「100万人の訪問」を見込んでいるとのことだった。新型コロナ感染防止策として3月20日に強制隔離措置が始まって以来、あれほどうるさく集会を避けるようにと国民に言い聞かせてきた政府がとんでもない規模の告別式を企画しているという事実もこれまた非現実的だった。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています