#997
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<引退記念インタビュー> 豪栄道「“やせ我慢”の美学を胸に」

2020/02/24
どんな苦境にも決して弱音を吐かず、戦い続けた。惜しまれつつ15年間の土俵生活に別れを告げた名大関が、全勝優勝から9度に渡るカド番まで、激動の相撲人生を独白した。(Number997号掲載)

 引退会見では泣かないように我慢していましたけど、実は、ひとりの時は号泣しているんです(笑)。いろいろ思い出したり、ネットの記事でいろんな人のコメントを見たり、ねぎらいのメールをもらったり――。ひとりになると泣いてしまうんですよね。もともと人前では泣けないタイプなんですが、それこそ引退会見の場で泣いてしまうと、「なんで後悔してんねん?」と思われそうでしたから。でも、本当はグッと来てました。会見中にうちの床山さんが泣いてるのが目に入り、泣きそうになってしまったんで、ずっと遠くの方を見つめていました。同席してくれていた師匠の顔を見ても泣いてしまいそうで、極力、横を見ないようにしていましたし。師匠が「ケガで苦労したが“やせ我慢の美学”を持っていた男」と僕のことを評してくださったんです。確かに度重なる故障はありましたけど、裸でぶつかり合うんですから、ケガも当たり前だと思っていました。そもそも「『痛い』と言ったところでどうなる?」と思うんです。ケガしたことを口にしたって勝負に勝てないし、治らない。言い訳になる。後から「実はケガしていた」とマスコミに話したとしても、「ダサッ! カッコ悪っ!」と思って、自己嫌悪に陥るだけですから。

 今回、関脇に落ちても10勝すれば大関に復帰できるし、「故郷でもある次の大阪場所に懸けよう」と、師匠はじめ周囲の方々が説得してくださいましたが、それを押し切って引退を決めました。少しも揺るがなかったので、そこは申し訳ないという気持ちがあります。ただ、自分のことは自分が一番わかっている。そこで周りの声に流されたら、なんとなく続けてしまうことになっていたと思うんです。そうなると気持ちの入らない相撲になっちゃいそうで、もう勝てるわけがない。情けない相撲を、支えてくれる人たちやファンに見せるのは自分自身が嫌なんで、わがままかもしれませんが、考えを押し通させてもらいました。引退は若い衆にも話していなかったけれど、会見が終わって部屋に帰ったら、みんなが花束を持って出迎えてくれました。ここでもまたグッと来ましたけど、堪えましたよ(笑)。

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photograph by Manami Takahashi

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