2003年の1月。30歳の老人を目撃した。第65代横綱、貴乃花光司、現役引退。本稿筆者は新聞のコラムに「青年の老境」と書いた。
失礼のつもりはなかった。全盛の直後の老い。中間は飛ばされている。いかに凝縮された、どれほど濃密で過酷で、なんと恵まれた青春を過ごしたのか。
端正な顔立ち、立派な骨格、同じ世代が働き盛りへと差しかかる年齢、なのに白い肌の艶はいつしか消え、とっくに膝関節の働きは損なわれ、目の焦点もどこか定まらない。水滴を瞬時に弾きそうであった少年力士の姿は遠い幻のようだ。
それが、そのことが、ひと回りして、まぶしかった。
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photograph by KYODO