後半早々の失点に焦りが広がる中、卓越した観察眼をもつ
ベテランにだけ見えていた、ピッチ上の“風景”とは――。
2月29日、ブラジルW杯3次予選ウズベキスタン戦の後半9分だった。
たぶん、香川真司がシュートで終わっていれば何の問題もなかっただろう。だが、長友佑都への微妙なパスがカットされ、痛烈なカウンターを喰らってしまった。
その刹那、遠藤保仁は、長友が上がったサイドの裏のスペースに向かって走った。最初は4対4の同数だったが、ナシモフとシャドリンがゴール前に走り、4対5の数的優位を作られてしまう。遠藤の必死の帰参も実らず、右サイドから絶妙なクロスを入れられ、ゴールを割られた。
「ゴール前に2人、入って来られた時点で勝負ありだった」
遠藤は呆然として、ゴールに転がったボールを見つめていた。
ウズベキスタンのベンチは総出で得点者シャドリンを迎え、沸いた。
今野泰幸は、この光景を見ながら後半の立ち上がりの失点にショックを受けていた。
「失点して、正直ガクッときました。先制点で相手は勢いづくし、しっかり守りつつカウンターを狙うとか、戦い方を明確にできるんで……」
だが、まだ時間は十分にある。
遠藤は、そう思っていた。
「失点したけど、早い時間だったし、1点ぐらいいいやって俺は思っていた。先制されて、アタフタするようなチームはダメだし、自分らには絶対に取り返せるという自信と、それだけのメンバーがいたからね」
「2点取って逆転しようじゃなく、まずは追いつくことを考える」
ウズベキスタンは、先制点で士気を上げていた。増幅する勢いと漂う追加点の気配。一方、焦燥の色を浮かべる日本。
「この状況で考えないといけないのは、絶対に追加点を許さないこと。そして、早く同点に追いつくこと。2点取って逆転しようじゃなく、まずは追いつくことを考える。点を取るためには、個の力に頼るのではなく、しっかり繋いで組織で崩していく。失点した時こそ、原点に戻ってプレーすることがすごく大事なんですよ」
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