獲得したタイトルは数知れず、在任期間はすでに25年目。
だがマンUのファーガソンは今なお栄光を渇望し続ける。
'02-'03シーズンのCL名勝負に、監督哲学の真髄を探った。
だがマンUのファーガソンは今なお栄光を渇望し続ける。
'02-'03シーズンのCL名勝負に、監督哲学の真髄を探った。
2003年4月23日の朝、アレックス・ファーガソンがベッカムに声をかけた。
「デイビッド、今夜はベンチスタートだ」
ファーガソンが口にしたのは、2002-'03シーズンのCL準々決勝、レアル・マドリー対マンチェスター・ユナイテッドのセカンドレグの件だった。
ベッカムは呼びかけには応じず、頭を振りながら更衣室の方に歩いていく。
「ここに戻ってこい。私から逃げるな」
ファーガソンが大声で怒鳴る。だがベッカムは、決して踵を返そうとはしなかった。
ベッカムのことを本当に気にかけているならば、ファーガソンは怒りを爆発させて相手を屈服させようとしただろう。
だがユナイテッドの監督は、それ以上引き止めなかった。彼の心のなかでベッカムは、既にチームを去った選手になっていた。
2003年春、ベッカム11歳からの師弟関係は微妙に変質していた。
このエピソードは、ベッカムとファーガソンの関係、そして二人の特徴を示している。
サッカー史上空前の人気を誇ったベッカムは、安っぽいメロドラマの主人公を演じるのが好きだった。片やファーガソンは、サッカー選手を子供のように扱う人物だった。
ファーガソンがユナイテッドを25年にもわたって率いてこられたのは、常に前進し続けようとする欲望のためだ。彼はチームをアップデートし続ける。その過程では、選手を容赦なく切り捨てることも厭わない。
ファーガソンは語る。
「選手には『バスに乗り遅れるな』と言うんだ。このクラブは進化しなければならないし、バスはいつまでも乗客を待ったりしない」
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photograph by Reuters(AFLO)/Getty Images