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<名将が語るベストゲーム> ファーガソン 「そしてベッカムはバスを降りていった」 ~2003.4.23 マンU×レアル・マドリー~

2011/05/02
獲得したタイトルは数知れず、在任期間はすでに25年目。
だがマンUのファーガソンは今なお栄光を渇望し続ける。
'02-'03シーズンのCL名勝負に、監督哲学の真髄を探った。

 2003年4月23日の朝、アレックス・ファーガソンがベッカムに声をかけた。

「デイビッド、今夜はベンチスタートだ」

 ファーガソンが口にしたのは、2002-'03シーズンのCL準々決勝、レアル・マドリー対マンチェスター・ユナイテッドのセカンドレグの件だった。

 ベッカムは呼びかけには応じず、頭を振りながら更衣室の方に歩いていく。

「ここに戻ってこい。私から逃げるな」

 ファーガソンが大声で怒鳴る。だがベッカムは、決して踵を返そうとはしなかった。

 ベッカムのことを本当に気にかけているならば、ファーガソンは怒りを爆発させて相手を屈服させようとしただろう。

 だがユナイテッドの監督は、それ以上引き止めなかった。彼の心のなかでベッカムは、既にチームを去った選手になっていた。

2003年春、ベッカム11歳からの師弟関係は微妙に変質していた。

 このエピソードは、ベッカムとファーガソンの関係、そして二人の特徴を示している。

 サッカー史上空前の人気を誇ったベッカムは、安っぽいメロドラマの主人公を演じるのが好きだった。片やファーガソンは、サッカー選手を子供のように扱う人物だった。

 ファーガソンがユナイテッドを25年にもわたって率いてこられたのは、常に前進し続けようとする欲望のためだ。彼はチームをアップデートし続ける。その過程では、選手を容赦なく切り捨てることも厭わない。

 ファーガソンは語る。

「選手には『バスに乗り遅れるな』と言うんだ。このクラブは進化しなければならないし、バスはいつまでも乗客を待ったりしない」

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photograph by Reuters(AFLO)/Getty Images

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