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甲子園の風BACK NUMBER
エース骨折の不運も被災地の熊本代表に大歓声が…「球場が味方をしてくれる」“甲子園の魔物”に頼らず起こした“ミラクル有明の追い風”とは
text by

間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/08/24 11:02
左て負傷によって登板ができなくなった工修哉だが、有明と熊本のために奮戦した
グリーンライトを与えられた二塁走者の永田はスタートを切り、そのすぐ横に打球が転がる。永田はゴロを捕球した東日本国際大昌平の三塁手にタッチされ、打者走者の西山も一塁でアウト。有明のチャンスはついえた。
もう〈神風〉は吹かないのか。試合は0-1で東日本国際大昌平にリードされたまま終盤へ入る。不思議な力が働かないのであれば、自分たちで風向きを変えるしかない。
8回、有明が仕掛ける。1死から、永田が一塁へセーフティバントを決める。初球を一、二塁間に転がし、悠々と一塁を駆け抜けた。
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「二塁手の守備位置が深かったので、そこにドラッグバントをしようと考えていました。投球が変化球だったので一塁側に転がりましたが、結果的には良かったです。自分が出塁すれば雰囲気が変わると思って、最も出塁する確率が高い方法を選びました」
球場の空気を一変させた「足」
続く西山は四球で出塁する。一、二塁にチャンスを広げ、またも初球だった。二塁走者の永田が三塁へスタートを切る。それに追随して一塁走者の西山も二塁を陥れた。ダブルスチール成功。交代でマウンドに上がったばかりだった東日本国際大昌平の2番手・白田夢真投手のモーションを盗んだ。
白田は甲子園初登板だった。その1球目に、永田は三盗を決めた。地方大会で登板した際の映像をチェックし、盗塁をイメージしていたという。
「二塁走者を2回見たら投球すると予測していました。ただ、3回見てきたので二塁へ帰塁するふりをして、三塁に走りました。1球で盗塁が成功すれば打者が打ちやすくなる状況をつくれるので、初球から走ると決めていました」
50メートル5秒8の俊足に加え、洞察力や思い切りの良さも兼ね備える永田の足は、劣勢の空気を変える力がある。さらに、観客の心もつかんだ。大歓声と拍手が球場に響く。このダブルスチールが風向きを変えた。有明に強烈な追い風が吹く。永田が言う。
「盗塁は逆境の場面でベンチや球場を盛り上げることができます。出塁して盗塁を決め、球場全体を味方につけたい狙いもありました。盗塁が決まってスタンドが沸いたのが分かりました。1、2回戦よりもお客さんの声が大きかったです。球場が自分たちの味方をしてくれると、歓声を聞いて感じました」
「負ける気はしなかった」逆転への確信
永田の出塁と盗塁から有明は2死満塁のチャンスをつくり、代打・広沢遼太朗選手がレフト前へ逆転の適時打を放つ。広沢にとって、これが甲子園初打席だった。
「1点負けていて終盤に入り、苦しい展開でしたが、誰もあきらめていませんでした。自分を信じてスイングしました。多くの方々に応援していただき、力をもらっています」
栄井彰選手も適時打で続き、8回に一挙4点を奪った。残り2イニングでの逆転劇。不運が重なった状況でも、有明のベンチに悲壮感はなかったという。
