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「反応」「ジリジリで」「(中谷潤人は)一発あるからね」井上尚弥の試合運びを支えた真吾トレーナーの“声掛け”の妙とは「右ドン、アッパー!」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/13 06:00
井上尚弥と中谷潤人のビッグマッチの試合展開に大きな影響をおよぼした真吾トレーナーの「声掛け」とはどんなものだったのか?
<最後まで気は抜かないよ。入りは悪くない。ただ中谷はまだ左を出していないからな>
あくまで警戒はマックスに。インターバル時、彼の椅子に座るチャンピオンの目は見ないで、トランクスを引っ張ったり緩めたりして呼吸を整えさせながらまるで独り言のように語る。視線は大型ビジョンのある方向なのか、よそを見ている。これも冷静をへばりつかせるための、父の演出に思えてくる。
続く2ラウンドには、ニューフレーズが飛び出した。
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<ジリジリでいいよ>である。
立ち上がり、中谷は左の手数が少なかった(試合後の会見で意図的であったことが明かされている)。それでも王者は段々と感覚をつかみ始めていくが、“見切ってない以上は一気に行くな”とクギを刺すかのようであった。
持ち味を生かす絶妙な言葉選び
<ジリジリ>はインタビューでも出てきたため、このフレーズは出てくるだろうなという予感はしていた。中谷戦を想定するかのように真吾トレーナーはこのように語っていた。
「自分の距離をキープしながら順を追って、相手のパンチを見切って冷静に自分の持っているものを少しずつ出していってもらえばいいし、自分はそうさせるようにしていくつもり。ジリジリ行くボクシングをしていけば、誰だってナオにパンチを当てることは難しいですから」
絶妙のフレーズだと思えてくる。
<行き過ぎるな>だとブレーキを踏ませる可能性がある。好戦的なマインドを打ち消してしまっては、せっかくの持ち味が薄まってしまうことも承知している。だからこその<ジリジリ>。ブレーキとは真逆。恐ろしく冷静で、かつ恐ろしくアグレッシブなモンスターを両立させるアクセルにしているのだと感じずにはいられない。

