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中谷潤人との激闘「今までなかった」“井上尚弥の異変”を長谷川穂積は見た…実況席で「うらやましい」と言った“ある瞬間”「あれは至福のときなんです」
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Kitagawa
posted2026/05/07 17:03
中谷潤人と至高の技術戦を繰り広げた井上尚弥。実況席で解説を務めた長谷川穂積さんも思わず「うらやましい」と口にした
実況席で思わず「うらやましいですね…」
中谷の攻撃も素晴らしかった。長谷川さんは解説する。
「中谷選手だけが当たる長い距離からロングアッパーを打ったり、近い距離でも腕を折りたたんでフックを打ったり、相手がやりにくい打ち方、フォーム、タイミングを中谷選手は持っていると思いました。ロープに詰めてからもすぐにいくのではなく、そこでの駆け引きがうまい。いい空間を作ってその空間で駆け引きをして、井上選手の間をうまく外して下にワンツーを打ってから右フックとか。井上選手にしてみるとパンチを返しにくかったかもしれません」
やはり中谷は井上にふさわしい相手だった。中谷の鋭いカウンターを井上が間一髪でかわし、両者が思わず笑顔になったシーンはこの試合のハイライトの一つと言えるだろう。解説をしていた長谷川さんは中継の中で「うらやましいですね」とコメントした。
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「あれは殴り合いで最高級の至福のときなんです。互いを認め合わないと出てこない。『お前やるな』『お前もやるな』と。自分も現役時代1回だけ、フェルナンド・モンティエル戦でお互い笑ってるんです。めったにないんですよ。現役時代に1回でもそういう殴り合いができたら幸せです」
忘れもしない2010年4月30日、WBCバンタム級王者だった長谷川さんは11度目の防衛戦でWBO王者だったモンティエルと拳を交えた。結果は4回TKO負けだったが、事実上の統一戦は当時のバンタム級で最高峰の2人が激突した紛れもない頂上対決だった。
話を試合に戻そう。反撃の狼煙を上げた中谷だったが、10回に偶然のバッティングで眉間をカットし、11回には井上の右アッパーを浴びて左目を痛める。これで流れは再び井上に傾き、結局逆転はないまま試合終了のゴングが鳴る。スコアは116-112が2人で115-113が1人だった。
「満員の東京ドーム、会場の異様な雰囲気、何から何まで素晴らしいイベントでした。最高の技術戦が見られました。ただ、個人的には根性むき出しの超ハイレベルな打撃戦も見たかった。でも、それはちょっと欲張りすぎですね(笑)。歴史に残るファイトになったのは間違いありません」


