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「敗着でしたね」永瀬拓矢33歳、藤井聡太23歳に敗れた王将戦“大長考2時間54分”の真相…決着前は「秘密でいいですか」とした準備も明かす 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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posted2026/04/12 06:01

「敗着でしたね」永瀬拓矢33歳、藤井聡太23歳に敗れた王将戦“大長考2時間54分”の真相…決着前は「秘密でいいですか」とした準備も明かす<Number Web> photograph by Shintaro Okawa

永瀬拓矢九段と藤井聡太王将。決着局となった王将戦第7局で、永瀬が2時間54分の大長考に入った真相とは

 まさか1三に引くわけにはいくまい。すると永瀬はわずか1分の考慮で5七に桂を成り捨てた。藤井は角で取る。再びお互いに角を手持ちにしたが、後手が桂損になっている。

 ここで初日の昼食休憩に入った。消費時間は藤井が2時間26分、永瀬はわずか15分。桂損の仕掛けが研究であることは明らかだ。

 再開後、永瀬は角を3八に打った。飛車取りである。この手は16分の考慮だった。藤井は飛車を2六に浮く。永瀬は打ったばかりの角を4九に成った。

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 午後3時30分、藤井は3筋の歩を突っ掛けた。すると永瀬の手がぱったりと止まったのである。1時間が過ぎ、2時間を超えた。そのまま午後6時になり、永瀬は封じた。2時間54分の大長考だ。

「敗着」の認識に至るまでの思考

 果たして、永瀬はどこまで事前の認識があったのだろう。

「3八に角を打った手まででしたね。ここまでしか予定していなかったので、認識が切れてしまっているんです」

 それは意外です、と思わず漏らすと、永瀬は言葉を続けた。

「いや、この将棋は先手に有力な選択肢が多いんです。例えば4七に金を上がった手では、▲4五同桂や▲2四歩という手もあります。あと感想戦で桐山先生(桐山清澄九段)に指摘された、5七の成桂を角で取るのではなく、▲4六金と角を取る手も一応、あるんですよ。ただそれは先手が悪くなってしまうんですけどね。本譜の進行は先手がやりにくいと思っていたので、実現の可能性が低いと踏んでいた変化に入ってしまいました」

 とはいえ、形勢を損ねていないのであれば、そこから先は地力の勝負になるのではないか。だが永瀬は「4九に角を成って、先手に3五に歩を突かれて事の重大さに気がつきました。困りましたね」と振り返る。だから大長考になったのだ。

 何に困っているのか。

「先手は次に4五に桂を跳ねるぐらいで、他に厳しい手がそれほどないんです。ただそれ以上に、後手に有効手がない。△7六歩とするつもりだったけれど、読んでみたら自信がありませんでした。だから4九に角を成った手がまずかったんです。敗着でしたね」

だから△6五銀を考えなきゃいけなかったんです

 2日目は永瀬にとって、ただただ辛い時間だった。形勢の針が藤井側に傾いていくのを、見ているだけだった。シリーズで一番の拙戦になってしまったのである。

 永瀬が「敗着」と断じた4九に角を成る手について、もう少し訊きたかった。

【次ページ】 藤井さんのパフォーマンスがどうこうではなくて

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