第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「要するに確率なんです」驚きの選手起用も好走もすべて想定内…青山学院大学・原晋監督が9度目の優勝で示した勝利の根拠
posted2026/01/09 10:00
復路をトップでフィニッシュした折田壮太に抱きつき、喜びを爆発させる黒田朝日(左)
text by

小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Yuki Suenaga
ゴルフ好きの原晋監督(青山学院大学)は、エースの快走をゴルフ用語でこう喩えた。
「黒田朝日(4年)はもうアルバトロスですよ。バーディなんてもんじゃない。予想を超えるような、最高の走りをしてくれました」
アルバトロスとは、ゴルフでパーより3打少ないスコアでホールアウトすることを指す。1打少なければバーディ。2打少なければイーグル。逆に1打多く打てばボギー。要するに、めったにお目にかかれないような会心の走りだったというわけだ。
大会が始まる前、「箱根駅伝トークバトル」の席上でも、原監督はこのような抱負を述べていた。
「できればバーディ2つ、そしてダブルボギーなし。つまり、快走するランナーが2人いて、大ブレーキは叩かないようにしたい。今回はそんな駅伝にしたいです」
とはいえ、何ごとも想定通りに進まないのが現実だ。実際のレースでは、1区で小河原陽琉(2年)が区間16位と出遅れる、痛打からのスタートとなった。
そこからジワジワと追い上げを図るも、4区が終了した時点で総合順位は5位。トップは区間賞ひとつと、4人全員が区間6番以内で走った中央大学で、前半に理想的な駅伝をしていたのはむしろライバルの中大だったと言えるだろう。
原監督は5区の黒田朝日にたすきが渡るまでに、トップとの差を2分以内に留めたいと選手たちに伝えていた。中大との差、3分24秒は冷静に考えれば危険水域だった。
ところが、次の5区で歴史的な大逆転が起きる。黒田による、起死回生の一打だった。
2日朝の「当日変更」まで黒田は2区起用が濃厚と見られていて、5区への起用をギャンブルと見る向きもあった。そんな外野からの声を、他ならぬ黒田の走りが一蹴したのだ。
箱根の山中で中大の柴田大地(3年)をかわすと、芦ノ湖への下りで前回区間2位の実力を持つ早稲田大学の工藤慎作(3年)に追いつき、直前で差し切ってトップでフィニッシュした。
前の4人全員を追い抜き、区間賞を獲得。タイムはなんと、従来の区間記録を1分55秒も上回る1時間07分16秒! およそ3分半もあったトップとの差をひとりでひっくり返したのだから、早大の花田勝彦監督が「山の怪物だな」と呆れたのも無理はなかった。
「5区黒田」決断の理由
なぜ、原監督は「5区黒田」を決断したのか。また、決断できたのか。そこに今回の勝利を解く鍵があったように思える。
大会終了後、黒田を実績十分の2区ではなく、5区に起用した理由について原監督はこう述べた。
「要するに確率なんです。統計学。その選手が持っている絶対値と、練習消化率や身体の状態、そして区間との相性、様々な要素を掛け合わせた結果、今回は黒田を2区ではなく、5区に置いた方が他大学との差を広げられると思った。何ごとにも根拠はあるんです」
だが、往路終了時点ではまだ、2位早大との差はわずかに18秒。3位中大、4位國學院大學とはそれぞれ1分36秒、1分54秒差で、復路がもつれる可能性は十分にありえた。
それをさせないのが、駅伝王者である青学大の凄みである。
6区に起用されたのは1年生の石川浩輝。3大駅伝初出場のルーキーが、1年生の歴代1位の記録で走り抜けるのだから恐れ入る。なぜ駅伝未知数の選手が区間3位で走り抜けられたのか。これにも、原監督の中には明確な根拠があったようだ。
「石川はまず、佐久長聖高時代に全国高校駅伝のアンカーで区間賞を取っているんです。あそこの区間は前半下っていて、テレビで見たときに『この子は下りに適性があるな』と思った。それで実際にうちに来て、夏合宿なんかでロードを走らせてみると、やっぱり良い走りをするんです。足の回転数も多いし、下りはいける。そう確信しましたね」
選手の骨格やフォームだけではない。スカウトの際には箱根駅伝を走りたい意欲を持っているかどうかを確かめ、その意欲を厳しい練習に耐えるベースに据える。



