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「なぜ堤聖也を仕留めなかったのか」英記者が43歳ドネアに疑問…蘇った6年前の井上尚弥戦、引退説に「ツツミ戦が最後であってほしい」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/12/20 06:01

「なぜ堤聖也を仕留めなかったのか」英記者が43歳ドネアに疑問…蘇った6年前の井上尚弥戦、引退説に「ツツミ戦が最後であってほしい」<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

43歳とは思えないキレを見せたノニト・ドネア(左)

 この試合でのドネアの戦いが見事だったことは間違いないが、一つだけフラストレーションを感じた点がある。私はドネアのキャリアをよく知っているが、ツツミ戦での彼はほぼカウンターパンチに頼り切っていた。問題は、それが43歳になった老雄の反射神経に依存する戦い方だということだ。

 ツツミは明白なダメージを受けていたにもかかわらず、ドネアはジャブ以外ではほとんど仕掛けなかった。主導権を完全に掌握しなかったことで、6〜12ラウンドにかけて、試合が彼の元から離れていったように感じられた。40代でもこのレベルで戦えるという事実自体が驚異的であり、そこは称賛されるべきだが、最終的にはやはり若さが差になったように思う。勝利はドネアの手からすり抜けていったんだ。

井上尚弥を窮地に追い込んだドネア

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 2019年11月、井上尚弥対ドネア戦の第9ラウンド。右をカウンターで打ち込んだドネアは井上を明らかに効かせ、千載一遇のチャンスを掴んだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち進んできた“モンスター”がプロキャリアで初めて経験したピンチ。しかしその直後、ドネアは自ら詰めにいかず、カウンター戦法を選択する。結果として、井上はそのラウンドを凌ぎ切り、息を吹き返すと、11回には左ボディでドネアからダウンを奪って判定勝ちを手にした。

「カウンターでイノウエにダメージを与えたから、その後もカウンターを狙い続けてしまった。あそこは自ら仕掛け、仕留めにいくべきだった。それこそが今戦で私が犯した最大のミステイク。その代償を敗戦という形で支払うことになった」

 試合後、ドネアが口惜しそうに語った姿が思い出される。あれから約6年――再び訪れた日本での世界戦リングで、ドネアはまたもカウンターでチャンスを作るも、仕留めるには至らなかった。今回に関しては、43歳という年齢もあって、現実的に自ら仕掛けて攻め切るだけの余力が十分ではなかったと考えるのが妥当だろう。一方、堤には相手の戦法の隙を突き、勝利を手繰り寄せる若さと活力があった。

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 前半の絶好機を掌握しきれなかったことで、ドネアは徐々に年齢に追いつかれてしまった。軽量級では特にそうなりがちだ。49歳で世界ライトヘビー級王座を獲得したバーナード・ホプキンス、さらに遡って40代でも世界ヘビー級戦線で活躍したアーチー・ムーア、ラリー・ホームズ、ジョージ・フォアマンのように、階級が上の方が年齢には適応しやすい。軽量級はテンポがはるかに激しい。この試合はバンタム級で、その点がドネアに響いたのだろう。

 試合前、ドネア自身もコンディションは非常に良いと感じていたはずだ。ただ、眩い照明の下で、12ラウンドの世界戦、小さなグローブ、世界レベルの相手と向き合って初めて分かることがある。終盤のドネアは疲れ、ペースを維持できなかった。結果として、43歳という高齢でのバンタム級王座奪取という偉業は果たせなかった。

【次ページ】 ドネアへの敬意「ツツミ戦が最後であってほしい」

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