第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「練習通りの力を見せたい」控えめな言葉に自信をにじませる青山学院大学のエース黒田朝日が狙う「箱根駅伝2区64分台」の新記録
posted2025/12/26 10:01
11月の全日本大学駅伝でエース区間の7区を担った黒田朝日。箱根駅伝でも3年連続でエース区間の2区を走る
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph by
Shiro Miyake
青山学院大学の選手には、入学してきた時から「やってやります感」があふれ出ている。
在学中の4年間で活躍して、目立って、箱根駅伝を盛り上げたい。そんなポジティブな思いが言葉に表れるので、話を聞いていると思わず微笑んでしまう。
その中にあって、黒田朝日(4年)は入学当初から淡々としていた。
「練習以上のことは出来ないので、しっかりと練習を積み上げて箱根駅伝で結果を残せたらいいなと思っています」
そんな言葉から3年がたち、黒田は青学大のみならず、学生長距離界を代表するランナーへと成長を遂げた。間違いなく、今回の箱根駅伝で青学大3連覇の鍵を握る選手である。
黒田は陸上競技一家に育った。
父・将由さんは法政大学の選手として2001年(1区3位)、2002年(1区6位)、2004年(3区4位)と箱根駅伝を3回走り、いずれも好走した。また、黒田の弟である黒田然も青学大の2年生として練習を重ね、妹の六花も仙台育英高の2年生にして全国の舞台で活躍している。
黒田の強さを、青学大の原晋監督はこう話す。
「1年生の時から非凡なセンスを見せていました。もともと3000m障害に取り組んでいましたから、脚さばきは申し分ない。大学に入ると練習のボリュームがかなり増えるわけですが、平然とこなしていましたね。1年生の時は5区を走るチャンスもありました。事前に軽い故障があったのに加え、当日に区間配置がバタバタになって実現しなかったけど、彼が走っていたら勝てたかもしれません(笑)。2年生になってからはほとんど故障していませんし、身体は小さいけれど頑丈で“小さな巨人”ですよ」
積み重ねた練習の結果が表れたのが、2年生の時に初めて走った箱根駅伝だった。黒田は2区に起用され、1時間06分07秒でいきなり区間賞を獲得して優勝に貢献。前回の2区は史上最速のペースで進行したが、黒田は落ち着いたレースマネージメントを遂行し、終盤に追い上げて従来の区間記録を上回る1時間05分44秒で区間3位となった。
強さの本質
2度の走りで明確になったのは、黒田の持つ「走りのセンサー」が明敏だということだ。
黒田は時計をつけず、いつも自分の感覚を優先させて走る。その感覚はレースの流れにも左右されることはない。前回の箱根駅伝では10位でたすきを受けたが、前後でたすきを受けた他大学の選手たちは我先にとオーバーペース気味に入りがちだった。しかし、黒田は「周りがちょっと速い」という感覚を大切にして、初めて箱根駅伝を走った時の感覚とすり合わせしながら走った。自重気味に入ったことで途中通過順位は上がらなかったが、後半に入った黒田は伸びを欠く前方の選手との差をどんどん縮め、2年時を上回るタイムで青学大の総合順位を10位から3位へと押し上げた。
気象条件といった「環境因子」やレースの「展開因子」に左右されず、自分の走りを貫くことが出来る。これが黒田の強さの本質だ。


