ヤクルト監督・広岡達朗の予言「阪急には7戦で勝つ」球史に残る日本シリーズのウラ側「絶対、外には漏らせない情報で…」阪急・山田久志が語る“異変” 

「シリーズ前には、“負けることはないだろうな”と思っていました。当然、苦戦することもあるだろうし、どういう展開になるかはわからないけれども、日本シリーズで四つも負けることは絶対ない。今の実力であれば、ウチが負けるわけがない。一選手として、そんなことを考えたらいかんのかもしれないけど、そのくらいの実力差、戦力差があると思っていたし、チームとしての自信もあった」

現役時代の山田久志。阪急の大エースとして君臨し、通算284勝をあげた　©BUNGEISHUNJU

阪急の大エース・山田久志が抱えていた不安

　そして、初戦は山田の思惑通りの結果となった。スワローズは山田の前に完投負けを喫した。三度の走塁死を記録するなど、初陣を迎えて浮き足立っていたのだろうか？　それでも、スワローズナインは、いや、大矢は手応えを覚えていたという。大矢はこの日、山田からシリーズ第1号を放っている。

「5対6で試合には負けたんですけど、山田から5点を奪っているんです。それで、“これだったらいけるんじゃないか？”、少なくとも再び後楽園球場に戻ってくることができるんじゃないかという気になりましたね」

ADVERTISEMENT

　前年の日本シリーズMVPであり、球界を代表する大エースから5点を奪った。敗戦を喫したものの、この事実はスワローズナインに勇気を与えたという。

　ブレーブスの先発マウンドを託された山田がこのシリーズを振り返る。

「あのとき、ペナントレースはそんなに悪くなかった。でも、日本シリーズの前に、故障というわけじゃないけど、非常に気になる体調だった記憶があります。それは絶対、外には漏らせない情報で、知っていたのはピッチングコーチだった梶本（隆夫）さん、植村（義信）さんだけ。おそらく上田監督も知らないはずです。僕の意を汲んで、コーチも監督には伝えていないはず。徹底的に隠していましたね」

ヤクルト打線に5点を奪われた日本シリーズ初戦を振り返る山田久志　©Number Web

　違和感があったのは下半身、踏み込む足の左ひざだった。

「ひざが痛くて投げられないというほどではないけれども、ときたま嫌な痛みが走る。後に半月板の損傷だとわかりました。例年ならば、日本シリーズに向けて私は一度、走り込み、投げ込みをしていました。それが私の調整方法でした。でも、この年はそれができなかった……」

　不安を抱えてはいたものの、それでも山田は「何とかなるだろう、いや、何とかしなければならない」と、エースの矜持を抱いていた。

「シリーズの開幕は間違いなく自分だろう。そんな思いはありましたよ。ペナントの開幕も、日本シリーズ第1戦も自分が投げる。そういう気持ちでずっと過ごしてきていますから、別に自分では大変なことをしているという意識はなかった。だから、初戦さえ乗り切ったら、あとは何とかなる。そもそも、第1戦で負けるようだったら困るし、それではシリーズに勝つことはできない。そんな思いで臨んでいました」

【次ページ】　「あの山田から5点も…」ヤクルトが敗戦で得た勇気