1月4日。箱根路のスタートまで残り364日。梅澤廉×伊藤大海［日テレアナウンサー対談］ 

伊藤　僕は1年目の担当が帝京大学の中野孝行監督だったんですけど、4年生の背中を見てと言われました。「肩甲骨が惚れ惚れする。もう写真集を出して、親御さんに見せたいぐらいだ」って。それくらい、学生は走ることに青春を捧げている。今回、初めてバイク実況を担当するんですけど、走っている選手たちの背中をついに間近で見られるかもしれない、と興奮しています。

梅澤　移動車からの中継は若手のアナウンサーにとって特別だよね。前回、初めて3号車に乗ったけど、レースってこんなにも生き物のように動くんだって感動した。

伊藤　そんなに動きますか。

梅澤　動くんだよ。たとえば、実況で伝えるのは「今、伊藤が梅澤を抜きました」って1回だけかもしれないけど、ひと区間20km以上の過程で何度も抜きつ抜かれつのバトルをしている。往路、復路合わせて10時間以上、視線を切る一瞬すらなかった。

伊藤　トイレにも行けないから、オムツを穿くってよく聞きますけど……。

梅澤　穿いていたよ。でも、したいと思ったのはリハーサルまで。本番は必死でそれどころじゃなかったね。1枚入りが売ってなくて24枚入りを買ったから、1枚貸すよ（笑）。大海はさ、事前にレースの予測とか、どんなことを話そうとか準備するの。

伊藤　思いついたことはだいたいスマホにメモしています。ただ、先輩方の実況を聞いていると、声から出る迫力が違う。本番で出てくる言葉の重みが違いますよね。

梅澤　まだ新人だった頃に、1号車に乗る河村（亮、故人）さんのサブについたんだけど、前夜もすごく落ち着いていた。1月1日に早めの夕食を終えて、これから最後の作業をするのかと思ったら、「もう準備はしただろう」って。あれを言いたい、これも言いたいという作業を直前にすると、本番で無理やりその言葉を使いたくなってしまう。言いたい言葉と言わなきゃいけない言葉は違うんだと。「一度全部捨てなさい」って言われたのは今でも覚えてる。

伊藤　深いなあ。見習おう。先輩のフレーズで言えば、僕は上重聡さんが言った「今日も自慢の息子です」がすごく印象的。3年生の時に5区で低体温症になって苦しんで、翌年8区でリベンジを果たした駒大の馬場翔大選手に向けた言葉で、ああいう表現で選手を讃えられるのかと。

梅澤　第100回大会ではさ、青学大の太田蒼生選手と駒大の佐藤圭汰選手が3区で激しく競り合った時に、蛯原哲さんが「逆転、再逆転！」って言ったじゃない。狙っていない、自然に出た言葉だからこそ、あのシンプルな五文字が胸に響く。

伊藤　ああいうシーンに出会いたいけど、今の自分にどんな実況ができるか怖さもあるな。大胆な予想をすれば、今回、僕は10区逆転優勝があると思ってます。

梅澤　10区逆転！　駒大が創価大学を逆転した97回大会以来か。いや、あるね。今回はシード権争いを含めて相当熾烈だよ。

伊藤　梅澤さんは今回、1区から2区のランナーにたすきがわたる鶴見中継所の担当ですよね。どんな展開を予測しますか。

梅澤　前回、中央大学の吉居駿恭選手が独走して区間賞を獲得。次は当然、お兄ちゃん（大和、1区の区間記録保持者）の記録を意識するから超ハイペースになる。1区から各大学はエースを投入してくると思う。

伊藤　もし駿恭選手が区間新記録を出したらどう伝えますか。例えば四字熟語なら （笑）。ちなみに、佐藤悠基さんの時（83回大会で1区区間新記録を樹立）は「空前絶後」、大和選手の時が「前人未踏」でした。

梅澤　やめてよ（笑い）。言葉を準備しちゃダメって言ったばかりじゃん。レースは生き物。しっかり準備だけはして臨もうよ。