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「3浪しました」“本気で東京藝大を目指した”異色の経歴…玖麗さやか25歳はなぜプロレスラーに?「練習生時代は“できない組”」スターダムで花開くまで
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原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2025/07/19 17:01
スターダムで活躍する玖麗さやか(25歳)。藝大志望からプロレスラーへと転じた異色の経歴を持つ
上谷沙弥に叩き込まれた「赤いベルトの厳しさ」
「客観的に自分の位置を見ています。なりたい自分があるので、それとどれくらい離れているのかを考えちゃう。でも、根拠のない自信があって、自分が成功するビジョン。想像力というか、妄想みたいな。デビューする前だったら入場する姿。今だったらチャンピオンになる姿を想像しながら。こうだったらまずいよな、こうなってたらいいよね、みたいに考えます」
上谷と中野による玖麗の取り合いは落ち着いたが、急な展開に玖麗が戸惑ったのも事実だった。
「上谷さんは憧れだし、好きな選手です。H.A.T.E.に行っても、あの上谷さんがもし心の中にいるなら一緒にやりたいという気持ちがありました。コズエンは自分を育ててくれた。上谷さんに誘われた時、多少の葛藤はありました。自分の願望は上谷さんがヒールを辞めることでしたが……。赤いベルト戦は違いました。チャンピオンとしていろんなものを背負っている上谷さんは、前の面影を感じることはあったけれど、冷徹というか、違う。だから逆に自分を奮い立たせて頑張れた。厳しかったです。赤いベルトはこんなに大きいものなんだよ、というのを叩き込まれた気がします」
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「次の挑戦ですか? それは赤いベルトを巻くのにふさわしい存在になれた時。ファンからはずいぶん言われました。『赤いベルトを舐めてる』『まだ早い』『赤いベルトの価値、わかってるの?』とか。団体を背負う気持ちになれた時に挑戦したい」
玖麗は引退した中野の後継者という見方もある。
「たむさんはリーダーで引っ張っている感じというより、みんなをつないでいた。それぞれがいろんな目標に向かっているけれど、たむさんの存在によってそれがつながる感じがする。星型の真ん中の部分というか。今がバラバラというわけではありませんが、それぞれ一人のレスラーとして頑張っている時期。たむさんが抜けて、より頑張ろうという気持ちが強くなりました」
中野のラストマッチを玖麗はどう見ていたのだろうか。
「横浜アリーナの試合は、ノーセコンドだったのでみんな無言でモニターを見ていて、終わったら泣いていました。どちらも引退してほしくない。しっかり目に焼き付けておこう、吸収できるものは吸収しよう、と思って。引退について考えるか、ですか。自分はやり切ったらやめたい。自分の足で健康なうちにリングを降りられたら幸せだな、と思う」
「ここは譲りたくないなという部分がある」
玖麗は入場時に顔に手を当てるポーズを取る。
「映画にもなりましたが、『スタートレック』っていう昔のSFドラマ。あれに出てくるバルカン人の『長寿と繁栄を』という挨拶なんです。自分が勝利する未来を見ている感じ。デビュー戦からやってますけど、深い意味はないんです。軽いノリです、ごめんなさい(笑)。なんかしたいなあと思って」



