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「なんでオレ?」“大工からドラフトどんじり入団”が日本一チームに…「野村再生工場の最高傑作」田畑一也の人生を変えた“まさかのトレード”
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNaoya Sanuki
posted2025/07/12 11:00

草野球で無双していた大工だった田畑。テストからドラフトどんじりで入団し、トレードされて日本一チームの優勝に貢献という波乱万丈の野球人生を語った
まさかのサイドスロー指令
「お前、広島の山﨑(健)みたいに横から投げてみろよ」
田畑が前回の先発登板で投げ合って敗れた相手。前年にサイドスローに転向して、この年ブレークしていた右腕の名前を挙げ、挑戦を促した。たまたまベンチ入りしていた田畑は、試合中にナゴヤ球場の屋外ブルペンでサイドスローを試すように言いつけられた。
「今更、俺サイドなんて投げられへんわ、って思ってね。アタマにきて真上から投げたんですよ。今までの自分の投球フォームよりさらに意識して真上から投げてやったんです(笑)」
田畑の造反(?)に野村監督は
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ブルペンでのそんな姿をベンチから見ていた野村監督は、そのまま田畑をリリーフとして試合のマウンドに送った。そこでも監督命令に背き今まで通りの投球フォームで投げた結果はなんと、二者連続三振。試合後、指揮官から呼び出しを受けた。
「指示に従わなかったわけですから、怒られるのかなと思っていました。ところが、野村監督は静かに『お前に足りなかったのは今日みたいな闘争心だぞ。それを忘れるな!』って。結局また、監督の手のひらの上でうまく転がっちゃった(笑)」
この後から、田畑は完全に先発に定着する。前半戦だけで2度の完封を含む7勝。野村監督の推薦を受け、生まれ故郷の富山で開催されたオールスターにも出場した。今までは全く縁がなかった晴れの舞台。故郷のスタンドを総立ちの拍手が包み、どこからともなくウェーブが起こった。つい数カ月前までプロ4年間で2勝しか挙げられなかった男の、シンデレラストーリーだった。
〈つづく〉

