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「試行錯誤を繰り返すしかない」カープの期待の星、23年ドラ1右腕・常広羽也斗が直面している“壁”の正体とは
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前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/09 11:00

今春のキャンプ中の投球では高い評価を得ていた常広
一軍とは違い、二軍のローテーション投手にとって登板間は調整ではなく、「強化」の時間だ。常広は2度のブルペン入りに加え、キャッチボールの頻度や強度も上げながら課題克服に励んでいる。ブルペンでの投球を見守る野村祐輔三軍投手コーチ兼アナリストは、現状を冷静にこう語る。
「1球1球を見たら『やっぱりドラ1だな』と感じます。ただ、先発として100球くらい投げる中で、球質が一定しないと苦しくなる。しかも常広の場合、『あれっ?』という球が意外と多い。今はその割合を減らしていこうと。原因としてはフォームが一定していないというのもあるんですが、細身なんですけどパワー系で力で(投球を)やりたがる。まだ自分自身と向き合う段階だと思います」
青学大4年時にはチームに3冠をもたらす活躍を見せ、「大学ナンバーワン右腕」とも称された。完成度の高い投手との評価を受けていたが、実はまだ「未完成」である。常広自身も現状を冷静に受け入れている。
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「フォーム的に言うと押し出すような形になって、打者には怖くない球になっている。打たれたときはそういったフォームになっている事実がある。どうすれば、いいフォームを維持できるのか。そこは練習するしかない。いいときの根拠があれば悪いときも修正できる。でも、それを見つけるのが一番難しい。いずれ直面していた問題だと思うので、今のうちに潰しておかないといけないと思っています」
1年間ローテを守るための挑戦
二軍から離れて調整するのではなく、二軍のローテーションに入りながら感覚を探る日々。データ分析が進む野球界において常広は自分の感覚を大事にしてきたが、今は試合映像を見返す時間も増えた。自分を知ることこそが成長の第一歩。自分の感覚に基づく主観とコーチの目から見た客観とをすり合わせながら、目に見えないギャップを埋めようと取り組んでいる。
「自分に足りないものがあることは、結果としてはっきりと出ている。継続して力を発揮できるかと言われたら、今はできていない。そこを潰していかないと、一軍に上がったとしても1年通して投げられない。たまにいいピッチングをするだけじゃ意味がない。結果を出せるように試行錯誤を繰り返すしかない」
6月上旬の広島には、青学大の後輩・佐々木泰やアドゥワ誠ら開幕時にはいなかった戦力が加わり、交流戦を戦っている。ただ、シーズンはまだ折り返しにも至っていない。大木を育てるには土を潤す雨が欠かせない。もがき、悩み、苦しんだ先に射す光は、きっと眩いものとなるに違いない。

