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中日“幻の逆転弾”の全真相…NPBが受理しなかった抗議書には「有力な物証」が添付されていた「リクエスト問題の本質は審判の技量でなく…」
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小西斗真Toma Konishi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/05/30 11:05

川越の打球をめぐる“疑惑の判定”に抗議する中日・井上監督
バックネット裏からの映像が無かったのは…
検証の材料となるのは、中継局の映像。当日はフジテレビONEが中継。リプレー検証中、場内に流された映像も同一である。最もわかりやすいはずのバックネット裏からの映像はなかった。打たれた投手の表情などを追っていたのだろう。
センターからの映像では、打球がポールの手前(本塁打)と奥(ファウル)のどちらを通過しているか判別できなかった。
頼みの綱は一塁側スタンド上部からの映像だった。多くのファンはこの映像から、一瞬打球がポールに隠れていたと判断した。しかし、協議に加わった審判員は「だろう」「たぶん」の域を超える確信に至らなかったということだ。映像がやや不鮮明だった、検証に使用するテレビモニターが小さく、わかりづらかったのではないかなどと推測されている。
なぜ「VARシステム」のように出来ない?
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リクエスト制度へのファンからの信頼度は揺らいでいる。そこにも「なぜ」がある。なぜニューヨークにあるリプレー指揮センターで検証するMLBのように、その場の審判員ではなくジャッジをジャッジするシステムにできないのか? なぜサッカーのVARシステムのようにできないのか? 「三笘の1ミリ」を判別したW杯クラスだと42台、Jリーグでも12台のカメラを使用。その設置場所、機材の機能チェックなども厳密に決まっている。
ヒトとモノには費用がかかる。しかし、現場の審判員はあらかじめ決められたルールの範囲内でしか検証はできない。つまり、環境を整えるのはNPBの責務ということになる。
過去にリクエストでの検証結果が覆ってしまったことがある。制度元年の2018年6月22日。オリックス対ソフトバンク戦(ほっともっと神戸)でのことだった。延長戦に入ってから、今回と同じ右翼ポール際への大飛球を巡り、判定は「ファウル」。しかし、ソフトバンクのリクエストで「本塁打」に覆り、これが決勝点となった。試合後も怒りの収まらないオリックス・福良淳一監督は、審判団に詰め寄り、売り言葉に買い言葉でオリックス側も交えた「再々検証」が行われた。