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「背中がぶち破れそうな衝撃」豪腕バレロのボディで「水を吐き出しました」…“異次元の怪物”に挑んだ嶋田雄大の証言「パッキャオ戦を見てみたかった」
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/11 12:22

2008年6月12日、日本武道館でWBA世界スーパーフェザー級王者エドウィン・バレロと拳を交える挑戦者の嶋田雄大
「僕が右を打って、体が伸びきったところに左ボディアッパーを決められたんです。これが効いた。背中がぶち破れるくらいというか、後ろにグローブが突き抜けていくんじゃないか、という衝撃でした。本当はその場でのたうちまわりたかったですけど、何とか耐えて、ゴングに救われて。でも、コーナーに戻ってうがいができませんでした。水を吐き出しました。昨日のことのように鮮明に覚えています」
嶋田は試合が終わってから気がついたことがあった。
「あのボディは阪東ヒーロー選手(バレロの日本デビュー戦の相手)も食らってるんです。あれで『うっ』となったところに右フックを打ち込まれ、前のめりに倒れて終わった。ボディブローは僕と同じパターン。なぜ自分は研究の段階でそこを見落としてしまったんだろう、という思いがあります」
「シマダさ~ん」試合後のバレロが見せた“意外な素顔”
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結局このボディブローが致命傷となり、5回以降、嶋田の動きがグッと落ちていく。7回、ダメージを負った嶋田がグローブでロープをつかみながらしゃがみこむ。主審が割って入るのかと思いきや試合は止まらず、一瞬の間を置いてバレロが右フックを振り抜くと嶋田がダウン。立ち上がったものの1分55秒、ストップとなった。
「終わったときは、あれ以上やっても勝ち目はないなという感じでしたね。バレロのエンジンがどんどんかかってましたから。4ラウンドのボディをもらうまでは僕もまだ元気でカウンターを狙っていたので、バレロも警戒していたんでしょう。そんなに出てこられなかった。ボディを効かせてからはグングン前に出てきました」
試合後、敗者の控え室を勝者が訪れた。ベネズエラの国旗に試合の日付、自分と嶋田の名前を書き込み、それを嶋田にプレゼントしてくれた。
「シマダさ~ん、シマダさ~んって片言の日本語で入ってきたんですよ。国旗をくれて、何度も『ベリー、ストロング! ベリー、ストロング!』と言ってくれて。ああ、少し認めてもらえたのかなと感じました」
バレロに敗れた後、嶋田は「まだやれる」と現役続行を決意、再起戦で世界ランカーにKO勝ちした。2009年7月、ナミビアまで遠征してWBAライト級王者パウルス・モーゼスに挑戦して敗れた。以後も現役を続け、41歳までリングに上がった。