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「これは早い段階で決着する」元世界王者・飯田覚士が予感…“王者”中谷潤人と“挑戦者”クエジャルの決定的な差「パンチのねじ込み方がエグい」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/02/27 17:03

28戦全勝の挑戦者クエジャルを下し無傷の30連勝を飾った王者・中谷潤人。王者と挑戦者の勝敗を分けた決定的な差とは…元世界王者の飯田覚士氏が徹底解説した
「最初のラウンドを受けてクエジャル選手は無理やりにでも頭を低くして潜ろうとしましたけど、中谷選手はスッとかわし続けました。腰を低くしてどっしり構えて迎え撃つといった選択肢もあったなかで今回はそうしないで、相手の出方を見ながらナチュラルに対応していました。相手の特徴や武器を空回りさせておいて、自らの強いパンチを当てていく。自分のいいところを出して、相手のいいところは出させない。ここを徹底していました」
強引に入ってきたクエジャルへの対処で右目付近にアザがついたものの、むしろ中谷のペースは強まった。どうやってもパンチを当てられない挑戦者と、どうなろうともパンチをヒットさせていく王者。この決定的な差が、早い結末を呼ぶことになる。
“敢えてロープを背負った”王者・中谷
3ラウンド、残り30秒を切るところだった。
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劣勢を覆したいクエジャルは連打を放ちながら前に出てくる。一方の中谷は下がってロープを背負わされる。こう記せば前者の体勢が有利、後者が不利という見え方になってもおかしくはない。だが内実はその逆であった。
中谷はロープ際で左ボディーをめり込ませて押し戻すと、頭を低くして右ボディー、左ボディーを突き上げるように放つ。
「クエジャル選手からの圧力を鑑みてもロープを背負うことなくやり切れるフットワークはもちろん持っています。だから敢えて背負ったように私には見えました。相手を空転させてきたのに、この場面は接近戦に付き合って自分のパンチを当てるためのエサを撒くと言いますか。ボディーもそれまでほとんど打ってなかった。上に(パンチを)集中しておいて下で仕留めようという作戦だったのか。長身の相手なので、もっと左ボディーストレートは入れることも可能だったので。ここは今度直接本人に尋ねてみたいと思います」
昨年7月のビンセント・アストロラビオ戦では上を意識させておいて最初のボディーショットで1ラウンドKO勝ちを収めている。確かに飯田がそう捉えるのは無理もない。だが今回彼が披露したのは「一発の美」ではなく、それぞれ一発ずつの凄味を詰め込んだ「集合体の美」であった。
軸回転から生み出されるエネルギー
追撃の左ボディーを見舞ったその刹那、超近距離から伸び上がるようにしてコンパクトに折りたたんだ右フックでまず顔面を叩く。飯田はまずこの技術に唸る。