Number ExBACK NUMBER
アシックス富永満之代表取締役社長インタビュー「テニスマーケットの潜在力とアシックスが描く未来とは?」
text by

秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byASICS
posted2025/02/06 11:00

アシックスはなぜテニスに注力するのか。富永満之代表取締役社長COOに話を聞いた
「両親がテニスクラブに入っていまして、幼い頃はそれについて行って、壁打ちをしたり、そこから入りました。ちょうどジミー・コナーズやビヨン・ボルグ、ジョン・マッケンローが出てきた時代で、非常に華やかでしたし、気性の激しいマッケンローに非常にクールなボルグと、選手のキャラクターも明確でしたね。雑誌や本を読んで情報を得たり、テニスに深くはまった時期でした」
ーーアメリカで腕を磨こうと考えたのは、海外への興味や憧れもあったからですか。
「すごくありましたね。父親が駐在していたこともあって、小1から小3の終わりまでアメリカに住んでいました。もう一度行きたいと思っていたのと、当時のテニス界では圧倒的に米国選手が強かったので、アメリカでテニスがしたいとずっと思っていました」
ADVERTISEMENT
ーー日本で教わったテニスとアメリカのテニスに違いはありましたか。
「当時、日本ではクレーコートが主流でしたが、アメリカはハードコートです。新素材のラケットを使う選手も増えていました。さらに彼らは圧倒的に背が高く、肩が強いので、ボールのスピードがまったく違いました。スタイルとしても、サーブ&ボレー主体でした。戸惑ったといいますか、こんなに違うんだと感じましたね。また、私は授業料や遠征費なども奨学金で学校が面倒を見てくれていましたので、その分、学校の中でも厳しい競争があり、競争社会の厳しさは身に染みて感じました」
ーー選手としての挫折も経験されたのでしょうか。
「割合早い時期にありましたね。ジュニア時代は、器用だったり、忍耐強かったり、ミスがなかったりすると勝てるケースが多い。ところが一定以上のレベルでは、自分からポイントを決められるとか、あるいは瞬発力などの運動能力が問われるとか、そういう点が非常に重要になる。そこが足らないということで、トレーニングをしたりと努力はしましたが、これは厳しいなと限界を感じました」
ーーその後、ビジネスの道に転身された。
「得意分野を生かすために、工学系の勉強ができるカリフォルニア州立工科大学に転校し、システム工学を学びました。現在のアクセンチュアのニューヨークオフィスに新卒で入り、32歳までアメリカで仕事をしました」
ーー日本企業で海外の社員をオペレーションするのは、マネージメントも含めて難しさがあるのではないかと思います。
「一つには、私が社長になってから経営会議にも新しい海外メンバーを入れ、英語で会議を行なうというようなことをしています。例えば欧州の担当だった優秀な社員を本社に引き上げ、グローバルに仕事をしてもらったり。そうすることで、下の人間も付いてきますし、日本のメンバーも学ぶことが非常に多いのです。そうしたところが機能しはじめたというのが、現状です。おかげさまで株価も2024年には年初から約3倍に上昇するなど、結果も出てきてるので、継続できるように頑張らなくてはなりませんね」
サイエンスを取り入れられたら…
ーー日本のスポーツ文化や環境について、何か考えはお持ちですか。
「アメリカに行った時も感じましたし、今も感じますけれども、スポーツとサイエンスの関係ですね。以前と比べれば日本も変わってきているとは思うのですが、海外のスポーツ環境を見ると、スポーツサイエンスやリサーチがどんどん進んでいる。そこは日本でも取り入れていきたいなと思っています。一生懸命やるとか、集中力では、日本人は強いと思うんですけども、もう少しサイエンスを取り入れると、必ずもっと強くなると思います。我々はリサーチのノウハウを持っていますので、ぜひ進めていきたいと思っています。アシックスは研究所を持っていますし、もともと創業者の鬼塚さんがテクノロジー、サイエンスから入っていますので、DNAもある。日本に恩返しじゃないですけれども、取り入れられたらと思っています」
ーー最後に、富永社長が注目するテニス選手を教えてください。
「ジョコビッチ選手が去年、パリ・オリンピックで金メダルを獲得しましたが、これには驚かされました。37歳という年齢ですが、ストイックな生活もされていますし、モチベーションは衰えませんね。テニスだけではなく、例えばサステナビリティや、それこそウェルビーイングについてもよく考えていらして、話していても的確な答えをお持ちです。本当に素晴らしいと思いますね。これからビジネスをやっても成功する方だなと思っています。また、日本では錦織圭選手ですね。彼が活躍すると国内は特に盛り上がりますから、頑張って欲しいです」
