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アシックス富永満之代表取締役社長インタビュー「テニスマーケットの潜在力とアシックスが描く未来とは?」

posted2025/02/06 11:00

 
アシックス富永満之代表取締役社長インタビュー「テニスマーケットの潜在力とアシックスが描く未来とは?」<Number Web> photograph by ASICS

アシックスはなぜテニスに注力するのか。富永満之代表取締役社長COOに話を聞いた

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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  男子シングルスはヤニク・シナー(イタリア)の連覇、女子シングルスはマディソン・キーズ(米国)の初優勝という結果になった2025年の全豪オープン。史上最多のグランドスラム25回目の優勝を目指したノバク・ジョコビッチ(セルビア・準決勝で途中棄権)が履いているテニスシューズは日本のメーカー・アシックスのものだ。

 アシックスは、テニス事業に力を入れ、「ランニングに次ぐビジネスの柱」に育てるとして、成長戦略を打ち出している。

 背景にあるのは、テニスやバレーボール、バスケットボール、サッカーなど同社における「CPS(コアパフォーマンススポーツ)カテゴリー」の急成長だ。同カテゴリーは2020年まで赤字を計上していたが、'21年に黒字転換すると、同年からの3年間の年平均成長率は、売上高で30%超、カテゴリー利益で60%超となった。'24年第1四半期のカテゴリー利益率は25%を超える高水準だ。

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 グローバルでビジネスを展開してきたテニスは、同カテゴリーをけん引する存在として、ジョコビッチなど世界的に影響力のある選手を活用し、経営資源を集中させてきた。昨年の全仏オープンで行なわれた外部調査では、シングルス本戦に出場した男子128人のうち、ジョコビッチを含む31人がアシックスのシューズを着用、ナイキの21人、アディダスの16人を大きく引き離した。31人のうち20人はアドバイザリー契約をしていない選手で、自身でアシックスを選び、購入していると思われる。製品への信頼の高さを示す数字だ。

 '24年には社長直轄の「Tプロジェクト」を立ち上げ、さらにテニス事業の強化を図る。テニスシューズは、グローバルでのマーケットシェア1位と、'26年12月期に300億円の売上高を目指すとしている。

テニスのブランディングが重要な理由

 なぜ、テニスに注力するのか。富永満之代表取締役社長COOに全豪オープンで滞在中のオーストラリア・メルボルンで話を聞いた。

 富永「我々の’23年度の総売上高は6000億円弱ですが、そのうち50%がランニングです。マーケットは非常に大きく、ビジネスの柱であることは間違いありません。その次の柱にテニスを据えたのは、ビジネスとしての位置付けに加え、ランニングとは違ったブランディングができると考えるからです。

 ランニングでも我々は多くの選手と契約していますが、例えばトップ10のランナーはと聞かれても、なかなか名前が出てこないでしょう。一方、テニスでは、あまり詳しくない方も含め、ジョコビッチの名前は多くの人がご存じです。その意味で、テニスでのブランディングは重要で、そこに力を入れて、アシックス全体のブランディングをさらに強化したいという意図があります」

ーー日本に限れば、テニスの市場規模はそれほど大きくないと思われます。

「グローバルでビジネスをする中での一つが日本ですが、我々の自国ですから、そこはしっかりやっていきたいと思っています。また、テニスは私自身、10代の頃に一生懸命に取り組んだ競技ですので、日本でのテニスのプレゼンスを業界全体で盛り上げたいと、個人的には思っています。そのために、トップ選手をサポートしたり、選手が来日すれば一緒にプロモーションをしたりということをさらに進めていきたいと考えています」

ーー一方で世界に目を向ければ、大きな、魅力的なマーケットが存在します。

「こうして全豪に来たり、昨年はウィンブルドンや全仏、パリオリンピックも観戦しましたが、すごい盛り上がりですね。ブランディングも行き届いている。さらに、最近はインド、中国といった新たな市場でも大きな伸びが見られますので、そこにも目を向けてやっていきたいと考えています」

ーー社長直轄でTプロジェクトを立ち上げた狙いについてお尋ねします。

「我々の商品には競争力があり、ナンバーワンと自負するテクノロジーも持っています。ただ、それが市場において、あらゆる競技でナンバーワンかというと、そうでもない。なぜか、と調べた時に、ランニングは別として、バレーボール、バスケットボール、サッカーなどでは、マーケティングや選手とのアドバイザリー契約、店舗の展開、研究所のあり方といったことが一つのベクトルになっていなかった。その反省から、各部門からテニスに精通し、パッションを持ったメンバーを集め、戦略をもう一度作り直そうというのがこのTプロジェクトです。研究開発をどう考えるか、どのタイミングでマーケティングを進めるのか、そこをしっかり検討しました。直轄のプロジェクトとして、ワンチームができていますし、例えば欧州や、ここオーストラリアでも、『社長、次はテニスに力を入れるんだな』という理解が浸透し、プライオリティが高くなってきている。これは我々の狙い通りです」

的確な経営判断とデジタル化

ーー富永社長はIT関連で専門性の高い経歴をお持ちですが、そこは今、どのように生かされているのでしょうか。

【次ページ】 的確な経営判断とデジタル化

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