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圧巻KO劇「ただのワンツーではなかった」元世界王者・飯田覚士が驚いた井上尚弥の”とんでもないフィニッシュ”…キム・イェジュン挑発の意図とは?
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/01/30 17:01

直前の挑戦者変更を受け絶対王者・井上尚弥はどう戦ったのか。圧巻のKO劇のポイントを元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した
「見るからにボディーは効いていましたからね。強がりの側面があった一方で、このような場面になることも想定して得意とするアッパーも含めて、玉砕覚悟で相打ちに持っていく練習も積んできていたはずです。でもその展開にすら引き込めなかった」
ここにはもう1つのポイントが隠されていた。スッと距離を詰めてから打ち込んだワンツーは、ただのワンツーではなかったのだ。
感心するように溜息をついてから飯田が言葉を続ける。
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「距離を詰めて顔面にワンツーを浴びせたときのテンポって“トントントン”と一定のリズムじゃなかった。“トントトン”って敢えてずらして打っているんです。半歩、半間のずらしって言うんですかね。もし“トントントン”ならキム選手は腰を据えて構えるなり、射程距離から離れるなりできたはず。でもずらされたところに不意にジャブを打たれ、次の瞬間にはもう強烈な右をもらっていました」
キムの次なる動きを無効化したうえで、エネルギーの放出を最大限にまで引き上げないまま仕留め切ったフィニッシュであった。これまでとは違うパターンだった。
「挑発されて多少なりともスイッチが入ったとはいえ、スティーブン・フルトン戦やルイス・ネリ戦みたいに、交感神経をガーッと高めてフルパワーで相手を倒したわけではありません。普段スパーリングでやっている動きが、そのまま出たんじゃないかっていう印象。あの左フックも、半歩半間ずらして打ったワンツーも、日頃からのトレーニングで染みついたものであるように感じました。映像で見返してみても、これで決めてやるぞっていう顔をしていないんですよね」
4ラウンドKO勝利にも、喜びを爆発させることもない。
急な対戦相手変更でも結果的には…
井上は試合後、急きょ対戦相手に繰り上がって準備を整えてきたキムに感謝の言葉を伝え、悔し涙を浮かべながら引き揚げる背中に拍手を送った。実力差のある相手に対して格の違いを見せつける内容だったが、井上にこれっぽっちの隙すらなかったのはキムにしっかりと敬意を払っていた証拠でもあった。キムは井上を目の前にしてもひるむことなく、消極的にならず勇敢に戦おうとした。