ボクシングPRESSBACK NUMBER

「あれ、いつもと違う…」英国人記者が驚いた井上尚弥“衝撃KO”までの静けさ「緊張感を欠き、完璧ではなかった」識者が指摘する“最強ゆえの難しさ”とは?

posted2025/01/26 11:30

 
「あれ、いつもと違う…」英国人記者が驚いた井上尚弥“衝撃KO”までの静けさ「緊張感を欠き、完璧ではなかった」識者が指摘する“最強ゆえの難しさ”とは?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

多くのトラブルを乗り越えて実現した2025年初戦。井上尚弥を追い続けてきた記者の目にはどう映ったのか?

text by

杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

PROFILE

photograph by

Hiroaki Yamaguchi

 “全階級を通じて最上級のボクサー”、井上尚弥(大橋)が2025年最初の一戦で改めて強さを誇示した。

 1月24日、有明アリーナで行われたWBC、WBAスーパー、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一戦でキム・イェジュン(韓国)に4回KO勝ち。IBF、WBOの指名挑戦者だったサム・グッドマン(豪州)が2度にわたる左目の負傷で試合をキャンセルし、本番2週間前に急遽抜擢された代役挑戦者をまったく寄せ付けない勝利だった。戦績を29戦全勝(26KO)とし、無人の広野を征く快進撃は続いている。

 今年4月で32歳になる“モンスター”のパフォーマンスをどう評価すべきか。圧勝の中でもキムの左パンチを何発かもらい、井上自身も「いつもよりも被弾した」と話していたことは懸念すべき材料なのか。そして、今戦を採点するならどのような評価を与えるべきか。

ADVERTISEMENT

 試合後、リングマガジンの編集人を務める英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。グレイ氏は軽量級、アジアのボクシングにも精通。かつて日本に足を運んで井上との対面取材を敢行したこともあり、その言葉には常に説得力がある。【NumberWebレポート全2回の1回目】

(以下、グレイ氏の一人語り)

「井上はギアを上げることすらなかった」

 正直に言いますが、井上対キム戦は“戦い”と呼べるほどのものではなかったというのが私の見方です。ご存知の通り、“モンスター”が設定された日程をキープし、指名挑戦者のグッドマンをこれ以上は待てなかったがゆえに組まれた試合でした。

 グッドマンは気の毒だったと思います。2度の故障で重要な機会を逃したのは不運としか言いようがありません。代役になったキムがわずか2週間前にこの試合を承諾した勇気は見上げたものでしたが、そもそも勝機はなかったのでしょう。4ラウンドで終わった一戦の中で、井上はギアを上げることすらなかったという印象です。

 特に開始直後は少し時間をかけ、距離を取り、静かに戦っていたのが特徴的でした。2ラウンド以降も、この日の井上からは本来の残忍なまでの激しさは感じられませんでした。緊張感が薄れているようにも見え、“モンスター”が持つ闘志、情け容赦のない姿勢は失われていたように思います。ただ、それでも素早く仕事をやり遂げ、綺麗にフィニッシュしたことでその能力は改めて示されたとも言えるのでしょう。

【次ページ】 「キムを破壊したKOは見事」「致命傷はボディ」

1 2 3 NEXT
#井上尚弥
#キム・イェジュン

ボクシングの前後の記事

ページトップ