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「死にたい」「僕が勝っていれば」何が卓球・張本智和を追いつめたか…「やめないでほしかった」プレーだけではない、水谷隼の不在の大きさ
posted2024/08/10 17:27
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Tetsuya Higashikawa/JMPA
8月9日、卓球の男子団体3位決定戦が行われた。
日本は地元フランスと対戦。第1試合の篠塚大登、戸上隼輔によるダブルス、張本智和が出場した第2試合のシングルスを落としたものの、第3、第4試合のシングルスで戸上、張本が勝利し2-2と食い下がる。しかし最終第5試合は篠塚が敗れ2-3、メダルには手が届かなかった。
激闘を終えて観客席に挨拶した張本は涙を流した。すべての試合を終えたあとの表情からは、抱えていたものの重さ、置かれた立場がうかがえるようだった。
エースとしての責任感
張本は日本男子のエースとしてパリ五輪に臨んだ。
パリ五輪が開幕する直前の世界ランキングは張本が9位、戸上が15位、篠塚が39位。日本勢でランキング最上位であるのもさることながら、実績でも抜きんでている。
2017年に男女を通じて日本史上最年少の13歳6カ月で世界選手権代表に初めて選出されたのを皮切りに、国内外で数々の好成績を残してきた。2021年の東京五輪にも出場し、団体戦で銅メダルを獲得している。
当然、エースとしての役割を期待される。本人もその自覚をもって2度目の大舞台に臨んだ。
ノーマークの北朝鮮ペアに足元をすくわれ…
だが出鼻をくじかれる格好となったのは最初の種目、早田ひなと組んだ混合ダブルスだった。出場する全種目で最も優勝に近いと言われる中、初戦で全くの伏兵だった北朝鮮のリ・ジョンシク、キム・グムヨンに敗れたのだ。
「今日は、特に男子選手のプレーがよすぎました。ミックスだけで言えばトップテンに入る想像以上のプレーで。悔しいですけど、しょうがないかなって思います」
思いがけない敗北を、それでもまっすぐに受け止めて迎えたシングルスでは、2戦目で敗れた東京五輪からの成長を見せる。準々決勝まで勝ち進み、屈指の強豪、樊振東(中国)を相手に2ゲームを連取。その後追いつかれたが3-2と再度リードする。最後は逆転負けを喫したが、名勝負と言ってさしつかえない内容だった。
しかしここから、苦しい時間が続いた。