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将棋PRESSBACK NUMBER
「藤井聡太15歳の歴史的対局、記録係は伊藤匠だった」「順位戦終局が23時以降だと…」“記録係不足問題”の将棋界、リアルな日当・仕事量
posted2024/05/30 06:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Keiji Ishikawa
公式戦の対局で主に記録係を務めるのは、棋士を目指して修業中の奨励会員。女流棋士や若手棋士が務めることも時にある。記録係の仕事ぶりを、東西の将棋会館で行われる通常の対局(持ち時間は各5時間)を例に紹介する。
対局30分前から定刻まで…やることは多い
記録係は対局開始30分前(9時30分)までに対局室に必ず着き、盤と駒を所定の位置に置く。座布団、脇息、ちり箱、記録の諸道具(消費時間を計測する機器、棋譜用紙、筆記用具)なども用意する。心がけの良い者は盤駒を椿油で磨く。両対局者が盤の前に座って駒を並べ終えると、上位者の5枚の歩を宙に放り投げる「振り駒」で先手・後手を決める(事前に決まっている対局もある)。定刻の10時になると、「〇〇先生の先手番です」と言って対局開始を告げる。
対局中においては、対局者の指し手を1手ずつ棋譜用紙に記入し、ストップウォッチで計測した消費時間と通計時間を書き添える。その場合、時間を正確に計測することが大事だ。棋譜の誤りは後で訂正できるが、時間は取り返しがつかない。なお、最近はタブレットの機器で棋譜と時間を自動的に記録し、前記の業務は補助的に行うことがある。
休憩時間(昼食は12時~12時40分、夕食は18時~18時40分)になると、対局者に知らせる。その40分間にコンビニなどでの買い出しで食事して、再開5分前までに対局室に戻る(対局者は規定によって終局まで外出できないが出前を取れる)。以前は対局者のお茶を入れ替えたり、不在の対局者に手番を伝えたが、現在は不要となっている。
対局中のトイレは、手番の対局者が席を立ったときや長考して指しそうもないときに行く。折を見て対局者に残り時間を伝え、それが1時間を切ったら10分ごと、10分を切ったら1分ごとに伝える。持ち時間を使い切ったら、ストップウォッチで「秒読み」をする。
終局後は棋譜用紙をコピーして対局者や観戦記者らに渡す。各5時間の対局で両対局者が持ち時間を使い切って秒読みになったり、形勢がもつれて長手数になると、終局時間は22時頃に及ぶ。持ち時間が各6時間の順位戦の対局では、23時以降になることもある。このように記録係の仕事は、多岐にわたって拘束時間が長い。
日当は約7000円~1万円、タイトル戦はもっと高い
対局者が戦いを振り返る「感想戦」を見ることは、記録係や観戦した棋士たちにとって貴重な勉強の場である。