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ビール瓶を手にした長谷部誠32歳「心の底から喜びは湧かないです」落胆する元仲間の肩に手をかけ…“降格→移籍→古巣に勝って残留”の悲哀
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama,Dennis Grombkowski/Getty Images
posted2024/05/23 06:02
ニュルンベルク時代とフランクフルト移籍1年目の長谷部誠。両クラブ間を移籍したことで抱えた思いとは
多くの人にとってはフランクフルト時代の華々しい賛辞や複数のタイトルを、長谷部のキャリアの勲章として取り上げるだろう。だが、それらは全てニュルンベルクでの冒険がなければ手にすることのできないものだった。
「ボルフスブルクから、ある程度のリスクを冒してニュルンベルクにいかなければ、今、ブンデスリーガでこれだけ長い間プレーできていないと思うし。フランクフルトに来ることはおそらくなかったと思う」
それがフランクフルトのレジェンドとなった長谷部が語った、偽りのない言葉である。
2部入れ替え戦、対戦相手はニュルンベルクだった
この時点から少し先のことになるのだが――フランクフルトでの2シーズン目となる2015-16シーズン、32歳となった長谷部は複雑な想いを抱えてピッチに立つことになった。残留争いに巻き込まれ、2部との入れ替え戦を戦わなくてはいけなくなったのだ。
その相手が、2部で3位に入ったニュルンベルクだった。彼らは、あの2013-14シーズン以来となる1部昇格を目指していた。
ここで筆者の話を持ち出して恐縮だが、2022年の春、ブンデスリーガを中継する『スカパー!』の企画で、長谷部自身にフランクフルトでの思い出の試合を1つ選んでもらい、じっくり語ってもらう機会があった。
そこで長谷部が選んだのは、なんと、この入れ替え戦だった(この番組は長谷部の引退発表を受け、現在も再放送および再配信されている)。
「自分のなかではニュルンベルクでの苦しい時期、降格させてしまったという想いを、これまでずっと持ってプレーしてきて。それは今に、つながっています。これから先の人生でもずっと、それは持ち続けるものだと思うんです」
あの試合からすでに6年が経っていたというのに、彼は以前と変わらずにそう語っていた。
残留を決めても、長谷部に笑顔はなかった
思い出すのは、古巣ニュルンベルクのスタジアムで行なわれた入れ替え戦の2ndレグ。勝利を収めて1部残留を決めた直後のことだ。
フランクフルトの選手たちが喜びを爆発させる一方で、長谷部の背中は悲哀に満ちていた。負けたチームの選手のようだった。