「結果がどうであれ、自分は今日無事にマウンドに立って投げられた。それは僕にとっていい日だった、っていうことなんだ。打たれたくらいで落ち込んでいられない。試合を楽しまなきゃ！」

日本のスポーツ界の価値観も変えた

　その答えを聞いた時の野茂の表情を奥村氏は忘れられない。

「試合を楽しむ？　そうなんですか……。そう言って野茂は黙り込んでいました。おそらく衝撃を受けたのだと思います。ペドロのその言葉から数カ月後、今度は野茂の口から楽しむという言葉が出た。野球の最高峰、しかもオールスターという舞台を前に。色々なことを乗り越えてメジャーに挑戦して、彼自身気負っていた部分もあるでしょう。でもメジャーでさまざまなことを経験して彼の価値観も変わったのだと思う。そしてその言葉が日本のスポーツ界の価値観をも変えた。とても感慨深い出来事でした」

©Haruka Sato

　奥村氏は97年に退任するまで3年間、野茂と歩みを共にした。日本人メジャーリーガーのパイオニアとして切り拓いた道のりは輝かしい一方で、初めて尽くしのベンチ裏では今では考えられないような“珍事件”も起きていた。

＜つづく＞