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「根拠のない昔ながらの指導」プロ野球コーチは淘汰される? 西武関係者が明かす“データ革命”…榎田大樹の復活で確信を得た舞台ウラ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/05 17:28
西武ライオンズの中ではどんな“データ野球革命”が起きているのか
「特にファーム部門が変化してきたと思います。コーチがデータ分析やバイオメカニクスなどについて勉強する意欲があるかどうか、ないしはデータやバイオメカニクスの専門家の意見をしっかり聞こうという意思があるかどうかが重要になってきましたね。
また選手も一昔前と違って、自分の数値を把握してからブルペンに入るようになっている。なのでコーチもデータやバイオメカニクスについて会話ができないと淘汰されていくのかな、という印象です。自分の経験に基づいて投手に指導したり、根拠もなくハードワークを強いるような昔ながらの指導は、なくなってきている感じですね」
2024年から、榎田がコーチになることで期待することは
前述の榎田大樹は、移籍1年目にキャリアハイの11勝を挙げたが、以後は故障が続き、2021年限りで引退。その後、バイオメカニクス担当のアナリストに転身してトラックマンや各種の計測機器を操る側となった。来季からはファームの投手コーチに就任する。
「彼は将来的にはコーチになる人材だとは思っていました。でも、いきなり投手コーチになるのではなく、一度バイオメカニクス担当としていろいろ知識を高めてもらってからコーチになってもらう方がいいのでは、と思いました。もちろん以前からの知識レベルが高い人で、球団としてどう育成するのか、フィジカル的にどんな問題があるのかなど、コミュニケーションすることもできます。そういう人にコーチになってもらうことで、データの専門家と現場とのギャップはだんだん解消されていくのではないでしょうか」
榎田次期コーチは、12月2日、3日に滋賀県で開催された「日本野球学会研究大会」にも姿を見せ、様々な研究発表を熱心に見ていた。その姿は元プロ野球選手という肩書以上に、すでにアナリストそのものという印象を受けた。
「いろいろな分野の研究が進む中で、バイオメカニクス、栄養学、人材開発、トレーニング、コンディショニング、メンタルトレーニングなど、いろいろなスペシャリストが出てきました。
今のコーチはもちろん自分の経験は大事にしてもらいたいです。ただ、そのコーチの周囲に専門分野のスタッフがいて、連係することが求められるのでは、と思います。そうした専門家の意見をコーディネイトしながら自分の判断の確度を高める、そういう意味では今のコーチはコーディネーターと言ってもいいと思いますね」
アナリストとして雇用された中国出身者がいる
プロ野球の世界は外見上は大きく変わっていないように見えながら、そのバックヤードは情報化へ向けて、大きく変貌しつつある。
続く稿では、西武ライオンズにバイオメカニクス担当のアナリストとして初めて雇用された劉璞臻(りゅうはくしん)氏に話を聞く。中国出身で、筑波大学大学院で学んだ劉氏がどのような経緯でライオンズの一員になったのか? そして今、どんな業務に携わっているのか? 興味深い話が続く。
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